第1回 日本の恐竜新時代が今始まっている!

「今、川端さんの後ろに、ヒパクロサウルスっていうのがちょうどいます。いわゆる、白亜紀末のカモノハシ竜(ハドロサウルス類)という仲間です」

 真鍋さんは腰を浮かして、背後にある常設展の恐竜、ヒパクロサウルスを指し示した。アメリカのモンタナ州で見つかったもので、頭にトサカ状突起を持った特徴的なルックスで知られている。そして、カモノハシ竜は、トリケラトプスなどの角竜とともに、白亜紀末に繁栄した草食恐竜の一大グループだ。北海道の「むかわ竜」も、1934年に樺太で見つかったニッポノサウルスもカモノハシ竜だ。

左後ろの大きな骨格がヒパクロサウルス(親子)。
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「それで、最近、鹿児島県薩摩川内市の甑島(こしきじま)という島の7000万年ぐらい前の地層から、カモノハシ竜の化石がみつかったんです。白亜紀が終わるのはご存じのように6600万年前なので、それから見ると白亜紀末期とはいえても最末期とはいえないんですが、日本で見つかっている恐竜の中では一番新しい、最後の恐竜の1つなんですね。そういったところから、甑島の恐竜にどんなものがいたのか、もっと理想的には白亜紀最末期の、日本とかアジアにはどんな恐竜がいたのか知りたいなというのが関心の焦点になっています」

 日本でも、白亜紀の最末期とはいえないものの、それに準ずる時代の恐竜化石が出始めている。甑島には、切り立った断崖があり白亜紀の地層が露出しているため、どこかから恐竜の化石も出るのではないかと思われていたのだが、それが実際に見つかった。例えば、2011年、8000万年前の地層から角竜の歯が見出されて2013年に発表された。この歯は、アジアではめずらしい角が発達した「北米的な」タイプのケラトプス類の可能性が高いということも分かった。そして、2016年、7000万年前に相当する地層からカモノハシ竜の大腿骨が発見され、2018年になって発表されたのである。双方の化石の同定を行った真鍋さんは、甑島の今後の発掘に大いに期待を持っているという。

 実際、白亜紀の終わり、恐竜の絶滅という、一大イベントの解明に日本での発見が貢献できるかもしれないというのは楽しい。本当に近い将来、それこそ、今年、来年、いや、明日、明後日にでも、6600万年前の白亜紀最末期の地層から保存状態のよい恐竜化石が出てきても不思議ではないのだ。

 とすると、準備が必要だ、とぼくは即座に感じた。

 白亜紀の終わりについて、今、世界でなされている議論をちゃんと理解しておきたい。

 隕石衝突による絶滅の説ついては、あまりにも魅力的で分かりやすいため、多くの俗流の解説がなされ、どこまでが科学的なコンセンサスで、どこからが「想像」なのか判然としない。だから、現時点の確かな議論を真鍋さんに教えてもらって、「その日」に備えようではないか!

真鍋さんは特別展「恐竜博2019」の監修も務めている。(写真は常設展)
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つづく

国立科学博物館特別展「恐竜博2019」開催

2019年7月13日(土)から10月14日(月・祝)まで、東京上野の国立科学博物館で「恐竜博2019」が開催されます。開館時間、休館日ほか、詳細は公式ホームページをご覧ください。

真鍋真(まなべ まこと)

1959年、東京都生まれ。国立科学博物館 標本資料センター長・コレクションディレクター、分子生物多様性研究資料センター長。博士(Ph.D)。恐竜など中生代の化石から読み解く爬虫類、鳥類の進化を主な研究テーマとする。1984年、横浜国立大学教育学部卒業。同大学院修士課程を86年に修了後、米イエール大学院修士課程を経て、94年、英ブリストル大学理学部地質学科で博士号(Ph.D)を取得。同年に国立科学博物館地学研究部に勤務し、地学研究部生命進化史研究グループ長などを務めた後、2016年4月より現職。『恐竜博士のめまぐるしくも愉快な日常』(ブックマン社)『恐竜の魅せ方 展示の舞台裏を知ればもっと楽しい』(CCCメディアハウス)『深読み! 絵本『せいめいのれきし』』(岩波科学ライブラリー)『大人のための恐竜教室』(共著、ウェッジ)など著書多数。『せいめいのれきし 改訂版』(監修、岩波書店)など、監修も多くて手掛けている。

川端裕人(かわばた ひろと)

1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、『青い海の宇宙港 春夏篇』『青い海の宇宙港 秋冬篇』 (ハヤカワ文庫JA)、NHKでアニメ化された「銀河へキックオフ」の原作『銀河のワールドカップ』(集英社文庫)とその“サイドB”としてブラインドサッカーの世界を描いた『太陽ときみの声』(朝日学生新聞社)など。
本連載からのスピンアウトである、ホモ・サピエンス以前のアジアの人類史に関する最新の知見をまとめた近著『我々はなぜ我々だけなのか アジアから消えた多様な「人類」たち』(講談社ブルーバックス)で、第34回講談社科学出版賞と科学ジャーナリスト賞2018を受賞。ほかに「睡眠学」の回に書き下ろしと修正を加えてまとめた『8時間睡眠のウソ。 日本人の眠り、8つの新常識』(集英社文庫)、宇宙論研究の最前線で活躍する天文学者小松英一郎氏との共著『宇宙の始まり、そして終わり』(日経プレミアシリーズ)もある。近著は、世界の動物園のお手本と評されるニューヨーク、ブロンクス動物園の展示部門をけん引する日本人デザイナー、本田公夫との共著『動物園から未来を変える』(亜紀書房)。
ブログ「カワバタヒロトのブログ」。ツイッターアカウント@Rsider。有料メルマガ「秘密基地からハッシン!」を配信中。