結局、インペリアル・カレッジ・ロンドンのチーム、ハーバード大学のチームの論文にあったようなロックダウン的な介入を繰り返すシナリオが避けられないなら、せめて、大波と大波の間のいわば「COVID-19時代の平時」の対策として、クラスター対策をより効果的に行って、その「平時」の期間を延ばしたり、最終的に経なければならない大波の数を減らしたりできるのか、ということが気になる。

 つまり、きちんと検査して積極的疫学調査で濃厚接触者をさかのぼって探し出し、見つかった感染者はすみやかに隔離し……ということがどれだけきちんとできるか、だ。

 日本の限られたリソースでは、ちょっとした外的な要因が入っただけで崩れることが3月から4月の経験で分かった。「新しい生活様式」は当然のごとく取り入れなければならないだろうし、問題が多かった検査についてもPCR検査を拡充する方向にあるようだ。しかし、接触調査の担い手は急には増やせない。一方で、このほど、COVID-19独特の特徴から「発症2日前」までさかのぼって濃厚接触者を探すことになったため、さらに大変なことになる。これは、日本だけの問題ではなくて、実は程度の違いこそあれ、世界中の問題だ。

 そこで、デジタル通信技術を使った追跡ができないだろうかという発想が出てくる。

「もはや世界中どこでも感染者が多すぎて、人力で聞き取りをする接触者追跡は限界に達しています。それで、最近、注目されたのが、オックスフォード大学のフレイザー教授のグループが『SCIENCE』誌に発表した論文(※1)です。これは感染症モデル論文としてもすごく良くできているんですが、彼らはもしスマホアプリを使って接触者追跡ができれば、ロックダウンしなくてもRを1未満にできるというシミュレーション結果を出しているんです。しかも、全員がアプリを使わなくてもある程度の人たちがやれば効果が出るということも検討していますし、さらに導入のための倫理的な検討までしていて、大きなインパクトがあったと思います」

発症した感染者Aがアプリを使って検査を依頼し、陽性が判明すると、その時点で接触者に隔離や検疫の通知が届く仕組み。接触者はBluetoothで感知する。感染拡大速度の評価では、基本再生産数R0を2と仮定。グラフ(右)の緑の領域なら感染は広がらない。オックスフォード大学フレイザー教授らの論文より。
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 今や日本でもほとんどの人が使っているスマホで接触歴を取る。これは、個人情報の取り扱いや、プライバシー権について大きなハードルがあるものになるのは想像できる。しかし、ある程度、それを犠牲にしてでも感染の拡大を食い止め、収束させられるなら社会にとっても個人にとっても大きなメリットがあるだろう。

「実は、デジタル技術で感染者を追跡すること自体、中国が当初から言っていました。中国では北京オリンピックの頃から、GPSと街頭カメラのデータで個人情報を収集していて、スマホのGPSから感染者を追跡できる、と。一方で、韓国は、感染者の接触者を追跡するだけじゃなくて、感染者の移動経路を全部公開しましたよね。それをすると、かりに7日間くらいウイルスが残っていても、そこを避けられるので、感染を減らすには有効なのは確かなんです。でも、風評被害と言いますか、感染者が立ち寄ったあたりに人が寄りつかなくなるということも起きました。いずれも、プライバシー権侵害の問題も大きくて、中国や韓国の方式を取り入れようという国は今のところあまりないはずです」

 それでは、どんなものならより問題が少ないのだろうか。すでに導入している国はあるのだろうか。

次ページ:検査と組み合わせると50~65%減の試算も

(※1)https://doi.org/10.1126/science.abb6936

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