新型コロナ「接触通知アプリ」はどれほど有効なのか

「シンガポールでは、Bluetoothを使ったTraceTogetherというアプリでスマホの個体情報は使うけれど、個人情報は記録しない仕組みで運用しているそうです。韓国のように感染者の移動経路までは分からないし公開もされないけれど、感染が確認された人と21日以内に長時間接触していた人の端末が分かって、追跡できるようになっています。シンガポールも結局ロックダウンになってしまったけれど、当初、中国から入ってきた人たちからの感染は完璧な接触者追跡をしていったん抑え込んだんですよね。その後も効果的に接触者追跡をしようとして、このアプリの利用を進めたんですが、インストールする人が十分な数に至らなかったためにロックダウンに至るのを防げなかったのは痛恨の極みでしょう」

 それでも、シンガポール方式は、世界中のアプリ開発者に刺激を与えたようで、似たような機能を持った「曝露(ばくろ)通知(Exposure Notification)」のフレームワークをAppleとGoogleが協力して開発して、スマホのOSに組み込んだ。これを利用できるのは各国の公衆衛生機関のみで、1国1アプリになるという。ぼくたちは遠からずそのアプリを入れるかどうか、という選択を迫られるだろう。導入したならば、「きょう検査で陽性だと分かった人と、昨日、濃厚接触していたので、14日間自己隔離と、検査を推奨」というような助言を受けることになるのだろうか。

 ただ、自分自身の行動指針のために使うだけではおそらくたりなくて、行政がどんな形でこういった情報を入手し、活用できるかということも、感染の制御には鍵になる。

「導入にともなってサーバーをどうするとか、法的なことはどうなるとかいろいろ検討しなければならないようですね。『SCIENCE』に論文が出た頃に、対策班の西浦さんがメディアに対して開いた勉強会では、すでに法律の専門家も招いて検討していると明言していました。法的な部分も、実務的な部分も、両方ともハードルが高いようですが、これはかなり有効な手立てになっていくんじゃないかと思っています」

 なお、フレイザー教授の論文に続いて、ロンドン大学衛生熱帯医学大学院の感染症数理モデルセンターのグループからは「大規模検査あるいは自主的隔離だけだと伝播を2~30パーセントしか減らせないが、デジタル接触者追跡と検査の組み合わせだと50~65パーセント減らせる」という試算をした論文(プレプリントサーバ)(※2)も出てきた。今、世界中で、これがどれだけ有効かという試算が行われており、日本の対策班でも同様だと推測される。

 COVID-19のパンデミック化は、人類の活動範囲と人的交流の拡大による部分が大きいことは間違いがない。そういった意味で、これは21世紀のパンデミックだ。と同時に、その暴虐に耐えるための技術(例えば、みんなロックダウン下でもつながっていられる。ネットで買い物もできる)も、制圧の可能性(スマホ接触情報を共有する)も、21世紀的なつながりの技術に依存しているのがなんともいえず示唆的だ。

 もちろん、デジタル接触者追跡ですべてが解決するわけではないのだが、大きな議論が必要なものであるだけに注意喚起しておきたい。

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(※2)https://cmmid.github.io/topics/covid19/tracing-bbc

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