新型コロナ、クラスター対策と「8割減」の本当の意味

 でも、今ではその時と様相が違っている。WHOはPHEICを宣言したし、COVID-19はパンデミックになった。日本でも3月末から感染者が急増し、今にいたる新しいフェーズが始まった。先に紹介したウイルスのゲノム調査では、それ以降の流行は、欧州経由で入ってきたウイルス株に起因することが分かっている。

「専門家会議の人たちにとっても、クラスター対策班にとっても予想外だったのは、欧米でこんなに急速に感染者が広がったことだと思います。だから3月上旬以後、欧米から多数の感染者が帰国したことによる急速な感染拡大に対処が追いついていかなかったんです。3月17日には、専門家会議から海外からの流入対策を強化するように厚労省に申し入れがされていますが、充分ではありませんでした。中国からの第1波ではそれでもクラスター対策が機能しましたが、欧米からの第2波には対応しきれなかったわけです。そこでは、空港検疫がザルみたいだという批判も当たっていると思います」

 欧米から帰国した人にPCR検査をして、結果を待ってもらわなければならない時にも、ただ待機してほしいと要請するよりなく、いざ、陽性が出て隔離ということになったときには、すでに地方の自宅に戻ってしまっていたというようなこともあった。公共交通機関は使わず、2週間は自己隔離と言われても、それができない人が多いのは自明で、それでも、有効な手立てを取れなかったのは、痛恨事だったと考えてよい。

「8割減」の合理性

 欧米からの帰国者に由来する感染者が急増した後のことは記憶に新しい。東京都などの5都府県では病床が逼迫し、専門家会議は「医療崩壊」を避けなければならないと頻繁に警鐘を鳴らすようになった。これ以上進めば急坂を転げ落ちるように事態が悪化して、イタリアやニューヨークのような状況になる可能性も見えてきた。

 では、どうするか、という重大な問いに対する回答が、緊急事態宣言の記者会見があった4月7日前後から言われているように、「80パーセント、接触を減らす」である。

「第2波からの見えないクラスターが発生して、リンクが追えない感染者が急増しているとクラスター対策班は考えていたようです。見えないクラスターがいっぱいあったら、その接触者を追えるわけがないので、積極的疫学調査も隔離も不可能です。もうすべての人を対象に、80パーセント、接触を減らすしかない。感染していない人も含めて、みんなが動かないようにしてもらい、見えない感染者からの感染を減らすしかないという結論に達したんですね」

 この80パーセントという目標は、分析担当の西浦博さんが「8割おじさん」としてみずから発信し、世の中に広がった感がある。根拠になる分析は論文化されていないが、ここは疑うところではない、というのが中澤さんの見立てだ。

次ページ:想定すべきは最悪のケース

おすすめ関連書籍

ビジュアル パンデミック・マップ

伝染病の起源・拡大・根絶の歴史

ささいなきっかけで、ある日、爆発的に広がる。伝染病はどのように世界に広がり、いかに人類を蹂躙したのか。地図と図版とともにやさしく解き明かす。

定価:本体2,600円+税