新型コロナ、クラスター対策と「8割減」の本当の意味

 クラスター感染した人たちというのは、そのような発生がありうる行動をしていた集団だ。集団感染の現場になった施設Aの顧客が、施設Aが閉鎖された後も、自ら感染していることに気づかないまま類似の施設B、Cを訪ね続けたらどうだろう。同じ行動パターンを取り続ける限り、次のクラスター発生の起点になりかねないことは簡単にイメージできるし、実際にそのような報告がいくつもある。リンクをたどる先には、もちろん「ほとんど感染させない人」も多いわけだが、「高リスク」な人も当然のように混ざっていることも忘れてはいけない。

 その一方で、そもそも「3つの密」が揃う場所はどこにでもあるわけだから、過去に感染が起きたリスクの高い具体例を知るだけでなく、自分で「ここは危ない」と判断できるような知識につなげてもらえればなおよい。まさに「不要不急」の場合は、そういった場所や状況を避ける行動変容で予防するのも、また大事な対策である。

 連鎖を断つことで予防につなげ、予防することで連鎖を起こさない。これらの両輪があってこそのクラスター対策だということである。

「大規模集会を抑制するのは、WHOや欧米もやってきたことですが、もっと条件を特定した上でのクラスター発生『予防』は日本の特徴だったと思います。そして、3月10日頃まではランダムリンクな感染のRが低いこととクラスター対策が奏功して、感染者数をある程度低く保てていたと評価できると思っています」

新たなクラスター発生の予防につながる「3密」の発見は日本のクラスター対策の大きな特徴だった。
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なぜ3月末以降に感染者が急増したのか

 しかし、3月末以降に起きたことは、かなり様相が違う。

 それまでのクラスター対策が奏功しなくなった。そこから、緊急事態宣言に至り、「家にいよう」ということになったのは現在進行系の事態である。

「まず確認しておきたいんですが、2月の初旬、春節で日本に来る人たちをウエルカムと言ったのがいけなかったという話があるじゃないですか。でも、中国から入ってきた第1波は、北海道の流行曲線を見れば分かるように、クラスター対策で何とか抑え込めたんです。そして、このときの判断自体は、世界の感染症対策の基本である国際保健規則2005年改訂版(IHR2005)にのっとって行われていて、WHOがPHEIC(国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態)をなかなか宣言しなかったのと同じ理由です。IHR2005には可能な限り交通や貿易への影響を最小にしながら対策するって書かれていますから。今みなさん実感していると思いますが、貿易が制限されると物資が不足するから、なるべく制約をしないままに対策しようというのが世界の方針です」

 ちなみに、4月27日に国立感染症研究所が公表した、ウイルスのゲノム研究(※2)などでは、1月、2月に日本各地でおきた感染は、中国から日本に入り込んだ株だったことと、既にほとんど見られなくなっていることが分かっている。これは、初動のクラスター対策が成功していたことの強い証拠になる。

国立感染症研究所の調査により、2020 年3月末から4月中旬にかけては、中国武漢から発した「初期の国内クラスター」の封じ込めに成功した一方、欧米経由の輸入症例が伝播していた(左上の赤い丸)と強く示唆された。(出典:国立感染症研究所「新型コロナウイルスSARS-CoV-2のゲノム分子疫学調査」)
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(※2)https://www.niid.go.jp/niid/ja/basic-science/467-genome/9586-genome-2020-1.html

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