「先進国の死亡統計というのはそれなりに信頼できるというのは、人口学者としては信じたいところなんですが……」と中澤さんはこれについては苦笑に近い表情だった。

「人口動態統計が出たら、まず見るべきなのは、肺炎や心不全が増えていないか、ですね。心不全って、つまり原因が確定しない心停止ですし、息苦しさというのは心不全の症状でもあるので。ただ、日本の人口動態統計って、速報が2カ月後なんですよ。3月のことは5月にならないと分からないという。これは、すごく遅れていて、ニューヨークなんて4月になってからの死亡統計を毎日更新してましたよね。日本だってやろうとすればできるはずなんですが。これはもう、人口学者はずっと言い続けていることです」

 結局、各都道府県で取りまとめられた報告が厚労省に集約されてまとめられるまでにそれだけの時間がかかってしまう。今回の件では、死亡統計が迅速に集計されないがゆえに議論の不確実性が増しているわけで、COVID-19対策のリスク要因ですらあるだろう。本当に困ったことだ。

「それを言うなら、今、毎日発表される新規の感染者数に、民間検査で見つかった感染者が入っていないというような話がありますけど、それって本当なんでしょうか。COVID-19は指定感染症なので、全数直ちに報告です。どこが検査したかによらず最終的に診断するのは医師以外にはできませんし、医師は保健所に報告する義務を負っています。そして、保健所から各都道府県の衛生試験所にある情報センターを介して感染研の感染症疫学センターに集約され、週報として報告されます。問題は週報の集計に長い時間がかかっていることで、この報告をオンライン化して自動集計にすれば患者数の把握が一元化されて問題は解決するはずなんです。人口動態統計の死亡統計の集計の迅速化と合わせて、強く主張したいところです」

 本当に、この件は、21世紀に入って20年もたった2020年とは信じられないレベルのようだ。早急に実現すべきところだ。情報の遅さは、大きなリスクである。

 なお、COVID-19の感染者情報の報告については、現場の医師のTwitterでの訴えが政府につながり、4月30日、厚労省から「新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム(仮称)の導入」のアナウンスがあった。早期の稼働を期待する。

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抗体検査の問題点

 最近、血液サンプルによる抗体検査の結果が報告されるようになっている。

 ドイツの1つの市では500人の血液サンプルを分析した結果、抗体陽性が約14パーセントだったという報告がある。また、アメリカのニューヨークでも3000人の調査を行い、奇しくも同じ14パーセントに抗体が確認されたという。これらが意味するのは,未感染で感受性の人(これから感染しうる人)が 86 パーセント残っているということで、現在の有病割合や検出率とは単純には比較できない。まだ詳細な報告はされていない「速報」のような状況でどれだけの信頼性があるのか分からないが、貴重な示唆を与えてくれるものであることに間違いない。

 日本でもこれから抗体検査の結果が出てくるはずなので、ある程度出揃った時点で中澤さんの考えを聞きたいと思っていたところ、5月1日、神戸市の病院で、外来受診した人のうち、血液検査を要した人に1000人の血清を調べた論文(※3)が公表され(まだ査読を経ないプレプリントサーバ)、ニュースになった。結果は、1000の血清検体のうち、33検体が陽性だったという。つまり、3.3パーセントの人の血液中に抗体があったということで、素直に考えれば、感染歴がある人をそれだけ見つけ出したということを意味する。

次ページ:「3.3%という数字が独り歩きするのはまずい」

(※3) https://doi.org/10.1101/2020.04.26.20079822

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