新型コロナPCR検査の状況を読み解く「3種類の検査目的」

「検査Bは、感染者が一人見つかったら、積極的疫学調査で濃厚接触者をさかのぼって探し出し、感染を判定するためのものです。これは、無症状の人もふくめて濃厚接触歴がある人たちを見つけて検査して、陽性の人を隔離することで、感染を広げないようにしようということで、これも必要な検査です。日本独自のクラスター対策がこれだけだと誤解している人も多いようにも思うんですが、実は独自でもなく、世界中でやっています。WHOも推奨していることです。台湾はほぼ完璧にやりきってみせました。一方で、欧米はあまりに感染者が多くなりすぎて、もう無理になっていると思いますが」

 つまり、検査Bは感染制御のためのものだ。

 そして、検査Cは、もっと強く感染制御を目指す。

「とくに症状がない人でも、接触歴もなくても、検査していって、陽性の人はやっぱり隔離していこうというものです。ある程度、市中感染が増えてくると、接触歴がなくても感染している可能性が上がってくるので、検査対象を広げる意味が出てきます。でも、これをできた国はあまり多くありません。韓国とドイツ、後、あまり話題になっていませんが、アイスランドは完璧にやりました。元々検査能力が高い国です」

 中澤さんの考えでは、この中で優先順位は、A、B、Cの順だという。一時、診断としての検査、つまり検査Aが拒否されることが多かったと報じられたが、やはり、それはとてもまずい事態だった。また、検査Bもおぼつかないくらい逼迫した状況だったことも、改善しなければならない。その上で、検査Cを行うべきなのだろうか。あるいは、行う余力はあるのだろうか。

「たぶん検査Bがちゃんとできるだけでも今の東京の検査数の10倍くらいになると思います。本当にまん延している状況になるまでは、偽陰性の起こりやすさもC>B>Aなので精度の問題もありますし、目的が感染拡大制御である限り、検査Cをする理由はありません。患者の精神衛生上の理由なら、検査Aの基準を緩めていくのが筋でしょうね。4月23日に出たインペリアル・カレッジ・ロンドンの『リポート16』(※3) でも、COVID-19の感染制御のために検査をどうするべきか検討しているんですが、一般公衆全員のスクリーニング検査には否定的です」

 このリポートでは、検査Cに相当する「一般公衆全員」の検査を「感染の拡大防止のためにはほとんど効果がない」とする一方で、医療従事者の中でもICU勤務などで特に感染リスクが高い人たちには、症状の有無にかかわらず毎週のPCR検査を行えば、伝播を1/3、減らせるかもしれないと試算している。そして、実際に、今、イギリスのいくつかの病院でパイロット調査を進めて検証しているという。院内感染が大きな問題として浮上している日本でも、こういったリソースの使い方は参考になるだろう。

日本の検査数が少なかった理由

 日本では検査Aと検査Bが主に実施されてきたことが分かった。

 その際、本来、優先されるべき検査Aが滞ったことも報告されてきた。また、検査Bも十分に行えたかどうかというと、特に3月後半からは十全ではなかったようだ。

 優先順位が高いAとBがともに万全ではなかったなら、日本の検査は本当にだいじょうぶなのかという心配が生じる。

 しかし、中澤さんは、「日本で検査数が欧米より少ないのは感染者が少なかったから」と述べる。その真意をやっと尋ねるところまで来た。

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(※3)https://www.imperial.ac.uk/mrc-global-infectious-disease-analysis/covid-19/report-16-testing/

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