新型コロナPCR検査の状況を読み解く「3種類の検査目的」

魅力的な唾液

 そこで問題になるのは検査精度で、こういった「いきなり確定診断」では、検査では陰性だったのに実は感染している「偽陰性」が生じやすい。さきほど中澤さんも指摘していたスワブ(鼻や喉をぬぐう綿棒のようなもの)にうまくつかないと、感染している人でも陰性になる、という件だ。また、ニュースで何度か報じられていたが、感染者の検体が非感染者の検体にまぎれこむ、いわゆる「コンタミ」(コンタミネーション=汚染、混入)のために、本来、陰性の人が陽性と報告される例も出ている。

 なお、検査の性能を評価する指標として、感度と特異度という概念がある。これはスクリーニングテストの結果(陽性・陰性)と、確定診断によって分かった「真の感染・真の非感染」を比べて得られたものだ。しかし、PCR検査は、そのものが確定診断なので、感度と特異度をどう考えるのかというちょっと小むづかしい議論が必要になり、ここでは深入りしない。いずれにしても検査は万能ではなく、常に精度が問題になることは間違いない。PCR検査に「偽陰性」が多いことも、コンタミなどに由来する「偽陽性」もあることはまぎれもない事実だ。

 その上で中澤さんが特に気になっているのは、サンプリングの問題だ。

「PCR検査の改良版の情報がいろいろ出ていますけど、サンプリングがちゃんとできていないと、その後、いくら迅速にできても検査結果はダメなんです。これまでは、そこの改善があまり報告されていなかったんですが、最近アメリカのFDA(食品医薬品局)が、唾液を検体としても、鼻や喉のスワブと100パーセント結果が一致したという報告を出して、承認しました。これは、ラトガース大学の研究(※1) です。もしも唾液が使えるなら検査がよくなるかもしれません。というのも、スワブをとる時に飛沫が飛び散るので、検査者の感染リスクがあるんです。でも、唾液なら、自分でサンプル容器に入れられるし、送るのもやりやすいですよね。また、今、飛沫やマイクロ飛沫が問題になっているように、唾液の中にいるウイルスが他の人にうつると考えられるので、被検者が自分だけで採取できる唾液を使うのは理にかなっていると思います」

 その後、イエール大学のチームがやはり唾液のサンプルが有用だという論文(査読前のプレプリントサーバ)(※2) を出すなど、この改善はますます有望視されるようになった。日本でも厚生労働省が、「検体として唾液を使う方法を5月中にも認める方向で検討」と報じられたので、遠からず唾液での検査が始まるかもしれない。

なんのための検査なのか

 PCR検査について以上のような議論を踏まえた上で、中澤さんは、今、日本では「3種類の検査目的」が、混同され議論が噛み合っていないのではないかと考えている。ちょっと詳しく聞いておこう。

「医師が診察した結果、肺炎などの臨床所見から鑑別が必要と判定した場合には、重症化した際の生命維持医療の必要性を考えて入院させ治療準備するというのは、日本の方針ですし、WHOが示している指針も同じです。このための検査を、検査Aとしましょう。これができずに検査拒否にあってしまうというのは批判されて当然です」

 検査Aは医療のため、まずは患者自身の治療のためのものだといえる。これまで、医師がリクエストしても、あるいは、基準だった37度5分の発熱を4日以上継続していても、検査を受けられないケースが続出していた時期があり、これはひどいことだ。それによって、治療の開始が遅れて、死亡などの重大な結果につながった人たちが実際に出ているのなら、検査の枠組みを再検討するのは当然だ。さらに今後、もっと初期から鑑別して投薬などすると早く治ったり、重症化しない治療薬や治療法が確立したときにも、範囲をもっと広げて多くの人に検査を受けてもらう必然性が生まれる。

 では、検査Bとは?

次ページ:日本の検査の余力はどのぐらい?

(※1)https://www.rutgers.edu/news/new-rutgers-saliva-test-coronavirus-gets-fda-approval
(※2)https://doi.org/10.1101/2020.04.16.20067835

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