新型コロナの広がり方:再生産数と「密」という大きな発見

マイクロ飛沫による感染の可能性

 では、こういったスーパー・スプレディング・イベントはどんな仕組みで起きるのだろうか。今、マイクロ飛沫感染(エアロゾル感染)という概念が、COVID-19の感染の広がり方の特徴の1つを説明するのではないかと提唱されているそうだ。

「もともとCOVID-19は、接触感染や飛沫感染が想定されていて、WHOなども、人との距離も2mの距離を開ければオーケイみたいなことを言ってきました。でも、どうやらそれだけではないかもしれないという話です。くしゃみやせきで出た飛沫はたかだか数メートル飛んで、すぐに落ちてしまいますが、もっと小さなマイクロ飛沫と呼ばれるものもあって、それはしばらく空気中を漂っているそうです」

 感染症疫学の本を読むと、代表的な感染の仕方として、接触感染、飛沫感染、空気感染といったものが挙げられている。

 飛沫感染は、咳やくしゃみなどで飛び散ったしぶきを介した感染のこと。インフルエンザも、かぜのコロナウイルスも、飛沫感染するとされる。

 一方、空気感染(飛沫核感染)は、そのしぶきに含まれていた水分が蒸発して病原体がむき出しの状態(飛沫核)になっても活性を保っている場合に起きる。飛沫核は小さくて長い時間、空気中に滞留しやすいので、まさに空気を吸い込むことで感染する。麻しんは空気感染するので、あっというまに集団中に広がることが知られている。

 そして、マイクロ飛沫による感染は、その間のカテゴリーだ。飛沫よりは長く滞留するけれど、飛沫核よりは滞留時間が短い。あるいは、ウイルス自体、飛沫核になってしまうと失活するけれど、マイクロ飛沫の状態ではまだ活性がある。そういった条件の中で、飛沫感染以上、空気感染未満の感染力を示すのではないか、という話だ。

「マイクロ飛沫を可視化する試みがあって、NHKが特殊カメラで捉えてサイトで公開しています。咳やくしゃみだけでなく、しゃべっただけでも空気中に出て、換気が悪いと20分たっても空気中に漂っているそうです。そこに含まれているウイルス粒子が、本当に失活しないのかというのは別の問題なんですけど、最近、いろんな研究でCOVID-19のウイルスが、様々な環境で長いこと活性を保つことが分かってきていますから、マイクロ飛沫の中でも間違いなく活性が保たれるでしょうね」(参考記事:「くしゃみで発生する“飛沫の雲”」

 空気感染というわけではないけれど、ある特定の環境下(いわゆる密閉、密集、密接、の「3密」のような)では、あたかも空気感染するかのような怖さがある。本当にこれがCOVID-19でどれだけ起きているのかは、今後、検証されるべきテーマだ。

つづく

2020.05.16

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中澤港(なかざわ みなと)

1964年、東京都生まれ。神戸大学大学院保健学研究科パブリックヘルス領域/国際保健学分野教授。神戸大学大学院国際協力研究科教授を兼務。博士(保健学)。専門分野は公衆衛生学、国際保健学、人類生態学、人口学。1988年、東京大学医学部保健学科を卒業後、同大学院医学系研究科保健学専攻に進み、1992年に博士課程を中退して同人類生態学助手に就任。在任中に論文博士を取得し、山口県立大学看護学部助教授、群馬大学大学院医学系研究科助教授などを経て、2012年より神戸大学大学院保健学研究科教授を務める。『人間の生態学』(朝倉書店)『わかる公衆衛生学・たのしい公衆衛生学』(弘文堂)などの共著では感染症の章を担当した。日誌的なメモ「鐵人三國誌」やツイッターアカウント@MinatoNakazawaでもCOVID-19を読み解くヒントを発信している。

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1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、肺炎を起こす謎の感染症に立ち向かうフィールド疫学者の活躍を描いた『エピデミック』(BOOK☆WALKER)、夏休みに少年たちが川を舞台に冒険を繰り広げる『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、NHKでアニメ化された「銀河へキックオフ」の原作『銀河のワールドカップ』(集英社文庫)とその“サイドB”としてブラインドサッカーの世界を描いた『太陽ときみの声』『風に乗って、跳べ 太陽ときみの声』(朝日学生新聞社)など。
本連載からのスピンアウトである、ホモ・サピエンス以前のアジアの人類史に関する最新の知見をまとめた『我々はなぜ我々だけなのか アジアから消えた多様な「人類」たち』(講談社ブルーバックス)で、第34回講談社科学出版賞と科学ジャーナリスト賞2018を受賞。ほかに「睡眠学」の回に書き下ろしと修正を加えてまとめた『8時間睡眠のウソ。 日本人の眠り、8つの新常識』(集英社文庫)、宇宙論研究の最前線で活躍する天文学者小松英一郎氏との共著『宇宙の始まり、そして終わり』(日経プレミアシリーズ)もある。近著は、「マイクロプラスチック汚染」「雲の科学」「サメの生態」などの研究室訪問を加筆修正した『科学の最前線を切りひらく!』(ちくまプリマー新書)
ブログ「カワバタヒロトのブログ」。ツイッターアカウント@Rsider。有料メルマガ「秘密基地からハッシン!」を配信中。