新型コロナの広がり方:再生産数と「密」という大きな発見

「Rの分散が大きいことを見出した西浦さんたちの論文(※1)では、多くの人がゼロとか1とか、ほとんど二次感染者を生んでいないのに一部の感染者だけ8人ですとか10人ですとか、たくさんの二次感染者を生んでいました。だから、スケールフリーな感染の特徴が出ています。さらに、西浦さんたちは、多くの二次感染が起こった状況、ハブになったような状況を特定しているんです。それは、クローズド、密閉された環境です。具体例としては、換気の悪い雪まつりのテントが挙げられています。そして、密閉された環境とそうでない環境を比べると、二次感染の起こりやすさが29.8倍(オッズ比)にもなったんです」

 この発見が、のちに、密閉、密集、密接、の「3密」というクラスターの発生条件の特定につながっていく。なお、密閉された環境のリスクを割り出した部分の研究デザインは、いわゆる症例対照研究で、オッズ比が29.8というのはきわめて大きなものだ。慢性疾患ではまずみられないし、感染症疫学の世界でもなかなかみない。

 COVID-19の感染の特徴が分かり、スーパー・スプレディング・イベントが起きやすい環境もある程度分かった。すると、この感染のハブになっているところを潰していけば、あとはあまり多くの感染者を再生産しない人たち(あるいはあまり感染者を生み出さない環境)が残るだけだ。そして、トータルでのRが1を切れば、感染を収束させられる目処が立つ。

 これが、日本のクラスター対策の背景にあるアイデアだ。再生産数の多い感染者から始まった連鎖を断ち切り、また、スーパー・スプレディング・イベントが起こりやすい環境を特定することで新たなクラスターの発生を予防する2本立てのものだと中澤さんは見ている。これについてはまた別の回に詳しく検討する。

COVID-19の感染の特徴がべき分布に近く、スケールフリーな感染の特徴を示している。さらにその状況を特定できたことで、ふだんの生活のなかで新たなクラスターの発生を予防できる可能性が示唆された。(出典:日本公衆衛生学会新型コロナウイルス感染症クラスター対策研修会(2020年3月29日)資料「COVID-19への対策の概念」押谷仁)
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 なお、西浦さんたちの論文は、現時点では、まだ査読が済んでいないプレプリントサーバでの公開のままだ。西浦さんたちがクラスター対策班での活動を本格化する中、なかなか論文化できないのだと推察する。火急の発見報告の体なので、「密閉された空間」の定義が語られていないなど、不十分なところもあり、いずれきちんとまとまったものを見たい。

「この研究は、世界中の感染症疫学の教科書に載るものになるかもしれない」と中澤さんが言う通り、ひらめきに満ちたものだからだ。

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(※1)https://doi.org/10.1101/2020.02.28.20029272

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