新型コロナの広がり方:再生産数と「密」という大きな発見

 再生産数Rというのは、概念としてシンプルで、また、理にもかなっているけれど、観察できる発症データからは直接見えない。では、どんなところに見られるかというと、直観的に分かりやすいのは、感染者が増えていくときのグラフだ。最近よく見るようになってきた感染者増加の片対数グラフなら、その傾きにRがあらわれていると考えてよい。

国別の感染者増加の片対数グラフ。それぞれの曲線の傾きに再生産数Rがあらわれている(グレーの曲線は他の国々)。(画像提供:中澤港)https://covid19datahub.io/
Guidotti, E., Ardia, D., (2020). COVID-19 Data Hub Working paper https://doi.org/10.13140/RG.2.2.11649.81763
R Core Team (2020). R: A language and environment for statistical computing. R Foundation for Statistical Computing, Vienna, Austria. https://www.R-project.org/
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 では、Rの分散が大きいというのは具体的にどういうことだろう。また、単に平均値としてのRを考えるのではなくて、その散らばり方まで気にすると何が分かるのか。順を追って説明してもらおう。

「まず、Rの数字って、1人の患者が何人に二次感染させるか平均を取ったものです。元のデータがあるなら、1人が何人に二次感染させたか、その人数の分布を考えることもできます。これがたとえばインフルエンザだと、二項分布、正規分布のベルカーブに近いかたちになります。最頻値と中央値、相加平均が一致して、それを中心になだらかに裾野がつながっていくようなものです。一方で、SARSは右裾を引いたべき分布に近い形でした。これは、ほんとどの人が他の人に感染させなかったり1人、2人にしかうつさないのに、裾野のところで、人数は少ないけれど、時々、たくさんの人にうつす人がいる、みたいなイメージです。少数の人がスーパー・スプレディング・イベントみたいなことを起こして全体としてのRを押し上げているので、平均値(相加平均)と最頻値が一致していません。Rが同じでも、かなり感染の仕方が違うわけです」

正規分布とべき分布の違い。おおまかなイメージだが、COVID-19など感染症の実態をとらえるには、平均値Rだけでなく、分散や分布も重要であることがわかる。
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 正規分布的なベルカーブ(日本のお寺の鐘ではなく欧州の教会にあるような口が広がっているもののイメージ)ではなく、0や1といった頻度が低いあたりにピークがあって、そこから先、急に頻度が小さくなってひたすら右に裾を引いていくような分布があるのは、つまり、SARSのようなスーパー・スプレディング・イベントを中心に感染が続いている場合かもしれない、というのである。

 そして、COVID-19の場合にも、そういったことが起きているのではないかというのが、複数の研究者の分析で分かってきた。

接触する回数の分布とも重なる

(画像提供:中澤港)
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「こういった違いはネットワーク論的にも説明できます。誰もが同じ確率で接触するランダムネットワークだと、接触数の分散が小さく、接触回数の分布を見ると、ベルカーブに近くなります。一方で、スーパー・スプレディング・イベントがあって、接触回数がべき分布になるようなネットワークは、いわゆるスケールフリー・ネットワーク です。これは、どの一部をとっても全体のネットワークの縮図になっているような形で、少数のハブだけが多くのリンクを持っているのが特徴です」

 あらためて整理する。

 まず、ランダムネットワークの場合、接触回数の頻度分布は、ベルカーブ状になる。この場合、頻度のピークがそのまま平均値でもあって、それがRだ。

 一方、スケールフリー・ネットワークの場合は、0、1、2といった頻度の少ないところに接触回数のピークが来る、そこから先はガクンと頻度が落ちるものの、それでも時々、8回だとか10回だとか接触する人が出てきて、全体としての平均値を押し上げる。だから、Rとして出てくる平均の値と、頻度分布のピークがずれている。言い方をかえると、ほとんどの人はほとんど感染させないが(頻度分布の左側)、一部の人がたくさんの感染者を生み出す(頻度分布の右側の裾野)。

 感染の仕方にこのような違いがあると、それはどんなことにつながっていくのだろうか。

「クラスター対策班の押谷仁教授(東北大学)の発言を聞いていると、押谷さんは、COVID-19もSARSと同じスケールフリー・ネットワークの感染をしているだろうと強調されています。でも、ここでは私見をいいますと、僕は2つの分布の混合分布じゃないかと思っているんですが」

 中澤さんの私見については、別の回で詳しく解説することにして、ここではスケールフリーな感染の仕方についてさらに考える。そのようなCOVID-19の感染の特徴を裏付ける研究としては、北海道大学の西浦さんのチームによるものがある。

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