RCT、ランダム化比較試験というのは、治療薬なり治療法なりの効果を知るために、その薬剤や治療法を試みる群と、試みない対照群を、参加者にランダムに割り振って行うものだ。つまり、実験室で行うような厳密な研究を、臨床レベルでも可能な限り厳密に行うための手順である。重症化因子の原因は「後向き」の症例対照研究が中心だが(重症化の条件をあえて作り出して、「前向き」の研究をすることは倫理的にありえない)、治療については前向き、かつ、ランダム化した、比較試験が大事だ。

 では、今、COVID-19に効く薬について、RCTの結果は出ているのだろうか。アビガンについてはまだで、今まさに治験(医薬品としての承認を得るために、効果や安全性を確かめるためのもので、研究デザインはRCT)が実施中だという。

「すでにRCTが報告されているのは、僕も最初から注目してきたクロロキンというマラリアの薬です。もしもこれが効けば、いいなあ、と思っていました。僕のフィールドのパプアニューギニアの村の店でも、村人が買えるような安価な薬ですし、マラリアの治療や予防に使う量なら副作用もあまりありません。中国で効いた報告があったので、フランスでRCTを始めて、イギリスやアメリカでも輸出規制をしようという話が出ているくらい期待されていました。それで、クロロキンの仲間のヒドロキシクロロキンのRCTの結果がやっと出てきたんですけど、それによれば、治癒には影響しない、でも、症状は軽くなる、というものでした。中国でも随分前から、多施設でのトライアルがされているはずなんですが一向に報告がないのは、あまりよい結果ではないんでしょう」

 結局、風邪薬と同じで、症状は和らげるけど、治癒には寄与しない、というのが今のところの結論である。

 さらにこの原稿をまとめている途中、アメリカの退役軍人病院で行われた研究の速報(プレプリントサーバー)があり、ヒドロキシクロロキンを使うと、使わない場合よりも、むしろ死亡リスクが3倍近く高かったというショッキングなニュースが流れた。そこであわてて研究デザインはと確認したところ、対照群があるので「単群」の研究ではないものの、すでに治療が行われたデータを集めての症例対照研究だった。アメリカでのRCTの結果が出るのはこれかららしい。

「今のところ、単独で効くというのは望めそうにないので、複数の薬剤を組み合わせるとどうかというのが進行中の研究だと思います」というのが現時点での中澤さんの見立てだ。

 世界中の臨床現場も、製薬関係者も、懸命に治療薬を探し続けているもののまだ決定打はない。

 アビガン、クロロキンの他にも、エボラ出血熱治療薬のレムデシビル、ぜんそく治療薬シクレソニド、関節リウマチ治療薬のトシリズマブ、膵(すい)炎の治療薬のナファモスタット(フサン)など、様々なものが話題になっており、今後、議論はますます深まっていくはずだ。

 いずれにしても、治療の専門家ではない中澤さんとアマチュアのぼくが語り合えるのはこの程度で。「この薬が効きそうだ」「こういう治療法が見込みがある」ということを提示された時、どんなところに注意して情報を見るべきかという点を汲み取っていただければと思う。

 そして、本当に効く薬があれば、局面を変えるゲーム・チェンジャーになりうる。突破口が開かれることに切に期待する。

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