新型コロナの治療薬や「BCG仮説」で気をつけたいこと

 前回は、重症化因子のことを考えたのだから、症状の改善や治癒につながることについても見ておこう。端的に言うなら、「治療薬」についてだ。

COVID-19に「効く」という朗報には当然大きな期待がかかるが、報道に際してはどんなことに気をつければいいのだろうか。
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「これから開発されるような新薬がこのパンデミックに間に合う可能性はあまりないので、既存の薬の中で効くものがあるのか調べるのが大事です。日本政府は、インフルエンザの抗ウイルス薬、アビガン推しですよね。でも、プレプリントサーバ(論文が査読を受ける前の段階で公開するサーバ)に載っている論文(※1)を見てみると、最初は効くという話だったのに、アップデートされていて、結局は治癒には影響しないというふうに変わっていました。治癒には影響なくても、熱と咳は1.7日くらい早くおさまる、という結果です。今のところ単一群での報告ですから、きちんとした研究が必要ですね」

 単一群というのは、まさに「薬を飲んだ人たち」だけを見ていて、「薬を飲まなかった」対照群を設定していない。前項でみた症例対照研究では、すでに起きたことを振り返る「後向き」の研究ながら、きちんと対照群を設けるものだった。

 一方で、こういったアビガンでの単一群の臨床研究は、よりきちんと条件を統制できるはずの「前向き」研究だが、本来必要な対照群を置かないために、単独の研究としては証拠能力が低く、今後、きちんとした研究をするきっかけになる研究として位置づけるべきだ。しかし、この時点で、ふとテレビを付けると「早期診断してアビガンを飲めば治る」と主張している情報番組御用達の専門家がうつったりして、げんなりさせられる。

 では、中澤さんが言う「きちんとした研究」というのはどういうものだろう。

「昔から疫学では、『3た』論法ということが言われていて、聞いたことがある人もいるかもしれません。たとえば、風邪薬を、飲んだ、治った、効いた、の『3た』です。風邪薬って、症状を軽くはできても、治癒する薬はないんです。でも、飲んだ人の体験としては、飲んで、その後、治るわけだから、かりに飲まなくても治ったのだとしても、みんな効いたと判断する、と。単一群の研究だと、3た論法に近いことにもなりかねません。そして、きちんとした結果を知りたいなら、RCT、ランダム化比較試験というデザインを取る必要があります。メディアが報じる新しい効きそうな薬のニュースの信憑性を知りたければ、まずはその研究がRCTかどうか確認するのが一番だと思います」

(※1)https://doi.org/10.1101/2020.03.17.20037432

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