新型コロナ、年齢や持病など「重症化リスク」の真相

「武漢の2つの病院を2020年1月31日までに退院したか死亡した、18歳以上の患者191人(137人は退院、54人は死亡)の研究(※2)があります。デザインとデータの取り方は後向きコホート研究ですが、解析方法は死亡例を症例、退院例を対照とした症例対照研究のアプローチをとっています。様々な属性や入院時の状態と、最終的に死亡するか退院するかといったことの関連性をみると、まずは死亡リスクが年齢が1歳上がるごとに1.1倍になるなど、年齢についてはやはり大きな要因だと言っていますね。入院時の血液検査の、臓器障害の程度を示す指標で敗血症の診断に用いられる『SOFA』スコアや、血栓塞栓のリスクの判定に使われる 『D-ダイマー』という指標が入院の時点で悪かった患者たちが注目されています。D-ダイマーの数値が悪い場合、死亡するオッズ比18.42ととてもハイリスクです。SOFAスコアの方も、オッズ比5.65でこちらも高いです」

 症例対照研究は、病気やそれによる死亡が起きた後から、可能な限り条件を整え、対照群と比較することでリスク因子をさぐる研究デザインで、機動力を求められる感染症対策の現場では強力なツールとなる。その指標は、オッズ比だ。オッズ比が2という時には、リスクが2倍というふうに解釈できる。

 そして、そのようなハイリスクの指標を見つける意味を中澤さんはこんなふうに言った。

「治療方針を立てる上でも臨床医たちは知りたいでしょうし、あまり考えたくないけれど、将来、病床や集中治療室が逼迫して肺炎の患者さんで溢れてしまい、どうしてもトリアージが必要になった時に、こういう指標を使って、助けられる人を選別せざるをえなくなることもあるかもしれません」

 トリアージに関しては、実際にイタリアやフランスなど、大量の重症者が同時に出た現場では、人工呼吸器の装着を、年齢によって制限せざるをえなかった場合があったというような報道も見た。そういったことが、逼迫した状態では起こりうる。

 こういった重症化因子の探索は、今、日本も含めて世界中で行われており、今後、どんどん報告されてくるはずだ。本当に嵐のような臨床現場で、データを取るのは大変なことに違いないが、嵐が去った後に振り返ることができるタイプの分析(症例対照研究や後向きコホート研究など)なら、記録さえきちんとしていれば多くのことが明らかになる。

 実際、4月29日に公表された、インペリアル・カレッジ・ロンドンの「リポート17」(※3)では、イギリスでの研究が報告された。それによると、先行研究で言われていた基礎疾患の有無は、有意な差をうまなかったという。ますます「基礎疾患の有無にかかわらず危険な感染症」という印象を強くさせられる結果といえる。また、指標として使えそうな重症化因子としても、「D-ダイマー」では有意な差はなく、いくつかの別の指標で、入院後死亡リスクが有意に上がっていた。一方で、オランダでの研究(1施設に入院した198人を対象にしたコホート研究(※4))では、COVID-19の重症者ほど静脈血栓塞栓症を引き起こし、それが予後にかかわることが示された。こちらはまさに「D-ダイマー」が重症化の指標となるという中国での研究と整合するものだ。

 今のところ様々な地域からの報告が出始めたばかりで、時々、結論も食い違う。まだまだぼくたちはこの病気のことをよく知らないのだと痛感させられる。こういった知見をどう活かしていくのか、専門家たちがコンセンサスを見出すのを待つ必要がありそうだ。

つづく

2020.05.14

(※2)https://doi.org/10.1016/S0140-6736(20)30566-3
(※3)COVID-19 Report 17 Imperial College London
(※4)https://doi.org/10.1111/jth.14888

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中澤港(なかざわ みなと)

1964年、東京都生まれ。神戸大学大学院保健学研究科パブリックヘルス領域/国際保健学分野教授。神戸大学大学院国際協力研究科教授を兼務。博士(保健学)。専門分野は公衆衛生学、国際保健学、人類生態学、人口学。1988年、東京大学医学部保健学科を卒業後、同大学院医学系研究科保健学専攻に進み、1992年に博士課程を中退して同人類生態学助手に就任。在任中に論文博士を取得し、山口県立大学看護学部助教授、群馬大学大学院医学系研究科助教授などを経て、2012年より神戸大学大学院保健学研究科教授を務める。『人間の生態学』(朝倉書店)『わかる公衆衛生学・たのしい公衆衛生学』(弘文堂)などの共著では感染症の章を担当した。日誌的なメモ「鐵人三國誌」やツイッターアカウント@MinatoNakazawaでもCOVID-19を読み解くヒントを発信している。

川端裕人(かわばた ひろと)

1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、肺炎を起こす謎の感染症に立ち向かうフィールド疫学者の活躍を描いた『エピデミック』(BOOK☆WALKER)、夏休みに少年たちが川を舞台に冒険を繰り広げる『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、NHKでアニメ化された「銀河へキックオフ」の原作『銀河のワールドカップ』(集英社文庫)とその“サイドB”としてブラインドサッカーの世界を描いた『太陽ときみの声』『風に乗って、跳べ 太陽ときみの声』(朝日学生新聞社)など。
本連載からのスピンアウトである、ホモ・サピエンス以前のアジアの人類史に関する最新の知見をまとめた『我々はなぜ我々だけなのか アジアから消えた多様な「人類」たち』(講談社ブルーバックス)で、第34回講談社科学出版賞と科学ジャーナリスト賞2018を受賞。ほかに「睡眠学」の回に書き下ろしと修正を加えてまとめた『8時間睡眠のウソ。 日本人の眠り、8つの新常識』(集英社文庫)、宇宙論研究の最前線で活躍する天文学者小松英一郎氏との共著『宇宙の始まり、そして終わり』(日経プレミアシリーズ)もある。近著は、「マイクロプラスチック汚染」「雲の科学」「サメの生態」などの研究室訪問を加筆修正した『科学の最前線を切りひらく!』(ちくまプリマー新書)
ブログ「カワバタヒロトのブログ」。ツイッターアカウント@Rsider。有料メルマガ「秘密基地からハッシン!」を配信中。