新型コロナの厄介さと怖さを知る:2つの致命割合CFRとIFRとは

 それでは、COVID-19の基本的な特徴を見ていく。潜伏期間や、致命割合といった、その病気の厄介さや、怖さにかかわる特徴だ。

「潜伏期をはじめ疫学的な特徴については、北海道大学の西浦博さんのチームの研究を含めていくつかの論文が出ています。まず、潜伏期の中央値は5日と長いんです(※1)。インフルエンザなら2日ですから、この長さがCOVID-19のひとつの特徴です。また、西浦さんたちのチームの別の論文(※2)の分析では、発症間隔の中央値が4日と潜伏期よりも短いことが分かりました」

 ここで、えっと思う人もいると思う。潜伏期間よりも、発症間隔が短いというのはどういういうことか、と。発症間隔とは、「発症した患者から感染した次の感染者が発症するまでの期間」だから、それが潜伏期間よりも短いというのは、よくよく考えてみると、つまり、潜伏期間にある感染者からも感染が起きているということを意味する。西浦さんは、2月上旬に開いた外国人記者クラブでの会見で、発症前の人からの感染が約半分と述べていた。

「これは4月になってから出た中国のチームの研究(※3)でも追認されました。二次感染の44パーセントは発症前に起こっていて、発症の2.3日前からウイルス排出が増え始め、0.7日前に一番高くなるというんです。潜伏期にも感染力があるということですから、その追跡が難しいということも意味します。本当に厄介なウイルスです」

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 ちなみに、一般論として、病気が発症した日ならともかく、感染した日を特定するのは難しい。また、誰から誰に感染したのかということも、直接、その瞬間を見ることはできない。だから、新しい感染症が報告された時、理論疫学者たちは、数理的なモデルをつくり、潜伏期などを推定する。特にCOVID-19のように、無症状の時にもウイルスを排出していることがほぼ確実な感染症だと、潜伏期の推定自体、数理モデルを使う以外の方法ではなかなかできない。防疫上大切な情報なので、潜伏期間などの推定は、利用可能なデータを使って世界中の研究者たちがそれぞれ試み、次第にコンセンサスが得られてくる。

 COVID-19の場合、中澤さんが「厄介なウイルス」と言った通り、長めの潜伏期間や、発症前にすでに他の人を感染させうる性質など、嫌らしい特徴が揃っている。

致命割合:どれだけ人が亡くなるのか

 次に気になるのは、おそらく、どれだけ重症化して、どれだけ亡くなるのか、という問題だろう。

 日本で感染者が報告されるようになった頃、危険な感染症がやってきた! という警戒とともに、「ちょっと重たい風邪のようなもの」「若者は重症化しない」と強調する「専門家」も見られた。その後、子どもが亡くなったという痛ましいニュースや、著名な芸能人が感染したり亡くなったりするニュースも報じられるようになり、「重たい風邪」では済まされないことは多くの人が理解するようになった。それでも、「致命率(疫学用語としては、致命割合、あるいは致命リスク)は、インフルエンザなみという論文が著名な論文誌に出た」という誤った「朗報」が伝えられることもある。このあたりはどう捉えれば適切な理解になるのかちょっと整理する必要がありそうだ。

次ページ:誤解されやすい「致命率」

(※1)https://doi.org/10.3390/jcm9020538
(※2)https://doi.org/10.1016/j.ijid.2020.02.060
(※3)https://doi.org/10.1038/s41591-020-0869-5

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