今年(2020年)になって、にわかに注目され、3月以降、世界的な一大問題になった新型コロナウイルス感染症COVID-19は、いまや日本に住むぼくたちの生活にも大きな影響を及ぼしている。WEBナショジオのような科学系サイトのアクセスランキングを見ても、トップページに表示される1位から5位まですべてが、「コロナ関連」であることも珍しくない。おそらくは、100年後の世界史の教科書に、時代の変化の契機として項目が立つかもしれないと言っても、多くの人が合意するのではないだろうか。

新型コロナウイルスSARS-CoV-2の電子顕微鏡画像。
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 そんな中で、報道の科学的な側面がどれだけ適切なものか懸念を覚えることが多い。おそらく理由の一つは、誰もが関心を持つこのパンデミックとその対策について、専門家に解説を求めようにも、その専門家からして手薄だということに起因する。例えば、テレビの情報番組に専門家枠で登壇するコメンテーターが「実は専門家ではない」問題は、今回については特に深刻だ。

 COVID-19対策の大きな枠組みを作るための中心となる学術領域は、疫学、特に感染症疫学だが、日本にはもともと専門家が非常に少ない。また、感染症疫学の中でも、最近、大いに発展している「感染症の数理モデル」の分野は、独特のスキル(数理的能力)が要求されるため、疫学専門家でもきちんと理解して有効に運用できる人はごくごく一握りだ。そして、そういった一握りの人たちも、今は政府の専門家会議や対策班にて、夜を徹して分析に勤しんでいるわけだから、科学解説な部分まで期待することはできない。

 それでも「クラスター対策班」がTwitterアカウントを開設したり、「8割おじさん」こと西浦博教授(北海道大学。日本の理論疫学のエースである)がメディアを集めて勉強会を開いたり、「新型コロナウイルス感染症に関する専門家有志の会」ができて情報発信を続けたりしているわけで、本当に頭が下がる思いだ。

 しかし、それらの情報発信はやはりポイントを絞った「今どうしても伝えておかなければならないこと」「関心が集中していること」に限られる。本稿を書いている段階では、「8割の接触減の根拠と、達成状況」についての情報発信がかなり多くなっているようだ。

 その一方で、例えば、日常の中で、「インフルエンザと比べてどれくらい重い病気なの?」と疑問に思って調べても、妥当な情報にたどり着けるとは限らない。それくらい簡単なことだろうと思うのだが、本当にいろいろなことがネット上で語られており、混乱させられる。

 さらに「日本のクラスター対策って独自路線なの? 不安」「PCR検査が少ないと聞いて不安」「これからどうなるの? いつ終わる?」といったことは、もっと議論の幅が広く、中には不安にかられた悲鳴まで聞こえてくる。

 さて、どうしたものか。

次ページ:研究の当事者レベルでの機微を含めて理解する専門家

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