適切な専門家に聞く「新型コロナ」の読み解き方

 現況を読み解きうる視野を持った「適切な専門家」はいないかと考えていたところ、神戸大学大学院保健学研究科の中澤港教授がまさにそれに相当するのではないかと思い当たった。COVID-19について、他の専門家の目が行き届かない、しかし、コアな知識が必要な部分を解説しうるライトスタッフ(正しい資質)を持っているのが中澤さんだと。

 中澤さんは、新型コロナウイルス感染症COVID-19が話題になり始めた2020年1月から、この困難な感染症をめぐる問題を読み解くためのヒントを日誌的なメモ「鐵人三國誌」(居住する神戸市長田区が『鉄人28号』『三国志』で知られる漫画家横山光輝ゆかりの地であることに由来)の中で公表しており、多くの人に参照されてきた。メディアが中澤さんに専門的な知識にかかわる相談をすることも多く、自らはことさら表に出ることがなくとも、現状のリスクコミュニケーションの一翼を担ってきたといえる。

 そこで、このたびインターネットでのインタビューを申し込み、詳しくお話を聞いた上でまとめることにした。中澤さんが、神戸大学医学部の学生のために準備した「COVID-19について」というスライドを見ながら解説をお願いする。

 まずは、どのような専門性をもって、中澤さんは「鐵人三國誌」の発信をしてきたのだろうか。中澤さんは医師ではないし、もう少し広くとらえて「感染症の専門家」とも違う。「疫学者」かというとそれも違う。自身のプロフィールには、「公衆衛生学/国際保健学、人類生態学、人口学」が専門とあるのだが、これだけを見て「なるほど、詳しいはずだ」と納得できる人は少ないはずだ。まずはそのあたりから。

「僕の一番の専門は、人類生態学で、次が人口学、国際保健の順に時間をかけてきました。人類生態学というのは、人が環境とどう協調しながら生きるのか、人と環境の相互作用をテーマにしていて、僕の主なフィールドはパプアニューギニアです。疫学は強力なツールで、感染症モデルの理論疫学的な研究もしたことがあります。そもそも、感染症モデルは、人口学の人口モデルと、数理的に共通する部分があって、その点でも大学の学部生の頃から関心を持ってきました」

2018年、健康概念の聞き取り調査のためにラオスへ行った時のひとコマ。自身のサイト「鐵人三國誌」はこちら。(写真提供:中澤港)
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 今回、きちんと書けなくて残念なのだが、中澤さんが掲げる人類生態学は、非常に大きな枠組みの野心的な分野だ。感染症との関わりでいえば、ウイルスなどの病原性微生物も、人と環境間のダイナミクスの一翼を担うものとして、大きなテーマとなる。だから、中澤さんは、公衆衛生学の入門書では感染症疫学の章を担当し(『わかる公衆衛生学・たのしい公衆衛生学』(弘文堂))、人類生態学の教科書では感染症や人口の数理モデルの章を担当する(『人間の生態学』(朝倉書店))ような立場にある。今、対策班の中にいる専門家たちとも、学術的な積み重ねの中で、同業者として互いに批判しあえる関係を、構築してきた。

 つまり、疫学、そして、特に、政策立案には不可欠な将来予測ができる感染症の数理モデルを、研究の当事者レベルでの機微を含めて理解している解説者としては、中澤さんをおいていない。COVID-19の臨床的な側面については守備範囲ではないけれど、そちらはしっかりした臨床家たちがいるわけだから、そういった人たちに任せればいい。

 というわけで、中澤さんに聞いていく。

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