第6回 自閉スペクトラム症を「愛着」の問題で済ませてはいけない

「親の側も、自閉スペクトラム症的な特性を持っていることがありますから、その場合、親の側のこだわりというのも出てきます。育児の価値観もかなり影響するので、そこも大切で、親にこだわりが強い場合には、子どもとの接し方を見つめ直すペアレントトレーニングを勧めることがあります。こだわりが強い人って、逆にパチッとはまるととても効果があるんです」

 診断閾下まで含めれば人口の10パーセント以上が該当するのだから、親子がともに自閉症的な特性を持っていることは単純に確率だけを見てもありうる。さらに、発達障害の最大の要因は遺伝的なものだということを考え合わせると、遺伝子の半分を共有する親子ともに特性があることはとてもありうる。とりわけ診断閾下の場合は、本人が気づかないけれど、実はそうだったということが多そうだ。こういったことをどう考えてサポートしていくかというのは、存外大きな問題だとあらためて感じた次第だ。

 以上、神尾さんと相対してじっくりとお話を伺った内容をまとめた。

 ぼくは非常に説得力を感じたのだが、もっと詳しい読者は別の感想を持つかもしれない。

 神尾さんはエビデンスを重視しつつ、そこから導かれる最適解をなんとか日本の医療や育児や教育の中に反映させようとしている。エビデンスを重視するとはいっても、その社会、文化で受け入れられ、いわば「腑に落ちる」ような理解をされてはじめて実効あるものになるのだから、ときに科学的な理解から踏み出して様々な努力も必要になる。神尾さんが長い時間をかけて試みてきたのは、研究から実装までのスペクトラムだ。

 その努力が結実し、自閉スペクトラム症と診断される人も、他の発達障害だとされる人も、それらが合併している人も、診断閾下の人も、そして、もちろん多数派を占める定型発達の人も、より育ちやすく生きやすい社会を引き寄せられればと願う。

発達障害クリニックの子どものためのスペースにて。
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おわり

神尾陽子(かみお ようこ)

1958年、大阪府生まれ。発達障害クリニック附属発達研究所所長。児童精神科医。医学博士。1983年に京都大学医学部を卒業後、ロンドン大学付属精神医学研究所児童青年精神医学課程を修了。帰国後、京都大学精神神経科の助手、米国コネティカット大学フルブライト客員研究員、九州大学大学院人間環境学研究院助教授を経て、2006年から2018年3月まで国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所児童・思春期精神保健研究部部長を務める。現在は発達障害の臨床研究や教育・医・福祉の多領域連携システムの構築に携わる傍ら、診療活動や学校医および福祉施設の嘱託医を務めている。一般向けに『ウタ・フリスの自閉症入門』(中央法規出版)、『自閉症:ありのままに生きる』(星和書店)などの訳書がある。

川端裕人(かわばた ひろと)

1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、肺炎を起こす謎の感染症に立ち向かうフィールド疫学者の活躍を描いた『エピデミック』(BOOK☆WALKER)、『青い海の宇宙港 春夏篇』『青い海の宇宙港 秋冬篇』(ハヤカワ文庫JA)、NHKでアニメ化された「銀河へキックオフ」の原作『銀河のワールドカップ』(集英社文庫)とその“サイドB”としてブラインドサッカーの世界を描いた『太陽ときみの声』(朝日学生新聞社)など。
本連載からのスピンアウトである、ホモ・サピエンス以前のアジアの人類史に関する最新の知見をまとめた近著『我々はなぜ我々だけなのか アジアから消えた多様な「人類」たち』(講談社ブルーバックス)で、第34回講談社科学出版賞と科学ジャーナリスト賞2018を受賞。ほかに「睡眠学」の回に書き下ろしと修正を加えてまとめた『8時間睡眠のウソ。 日本人の眠り、8つの新常識』(集英社文庫)、宇宙論研究の最前線で活躍する天文学者小松英一郎氏との共著『宇宙の始まり、そして終わり』(日経プレミアシリーズ)もある。近著は、ブラインドサッカーを舞台にした「もう一つの銀河のワールドカップ」である『風に乗って、跳べ 太陽ときみの声』(朝日学生新聞社)。
ブログ「カワバタヒロトのブログ」。ツイッターアカウント@Rsider。有料メルマガ「秘密基地からハッシン!」を配信中。