第5回 自閉スペクトラム症の早期支援が大切な理由

「私たち児童精神科医が診ているのは、子どものときに診断がつく人です。その後ずっと大人になるまでは診るわけですが、大人になって初めてっていう人はほとんど会う機会がないんです。精神科医から紹介されたら診ることはありますが、それも、子どものときのデータがないのだから、子どもの頃に児童精神科医が診ていたとしても、診断がついたかどうかも分からないわけです。発達障害という同じ診断名でも、精神科医と児童精神科医が、同じものを見ているかどうか分かりませんよね」

 つまり、神尾さんが疑っているのは、大人の発達障害と呼ばれるような人たちのすべてとはいわずともかなりの程度は、子どもの時には診断がつかない「診断閾下」(サブクリニカル)のグループだったかもしれないということだ。

神尾さんは研究者であり、自ら治療にあたる児童精神科医でもある。
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「児童精神科が関わる範囲でも、乳幼児健診のときには診断閾下でも、結局後で問題になるケースがいっぱいあります。ちっちゃいときにあんまりはっきりしなくて、学校に上がって不適応で不登校になったり、うつ状態になったり、それでクリニックに来て分かるケースが大きくかかわっているんですけど、そういう子たちって乳幼児健診のときには、閾下でフォローもされていないんですよ」

 もちろんこれは、神尾さんがたまたま幅広くいろんな事例に触れているから分かったというわけではなくて、エビデンスに基づいている。とはいえ、ここではまず、診断閾下のお子さんがどんな苦労をすることがあるのか、エピソード的に聞いた。

「もちろんいろいろなケースがあります。例えば、幼稚園に行き渋るお子さんに困っていらして、極端な緊張症だというんですが、健診や幼稚園では『発達には問題ない』『お母さんが気にしすぎですよ』と言われるだけだそうです。だけど、たまたま、ご家族が本当によくお子さんを見てらして、エピソードを聞いたら、やっぱり定型発達ではないし、でも、頭はよさそうだというのが分かりました。とにかく幼稚園は行かないし、家では時々お父さんと大げんかするって言うんですよ。お父さんも必死になって理屈を言うわが子に言い返したりとかして、もう、うんざりってお母さんは言って。それで、何回か来てもらううちに、やっぱり強いこだわりが確認できて、自閉症とはいえないけれども、自閉症的な特性はあるねとはっきりしてきました。そこで特性にあわせた関わり方を親が身につけるペアレントトレーニングのプログラムをここで実施して、すごくよくなったんですよ」

 ここでいうペアレントトレーニングとは、具体的にはこんなふうだ。