第3回 病院の外で見つけた自閉スペクトラム症への「最適な取り組み」

「会話の中で、ある言葉が出てきたら、次に近い意味の言葉が出てきた時に、定型発達の人は反応速度が早くなるんです。でも自閉症の人は、そのスピードがほとんど速くなりませんでした。前にどんな刺激を与えても回答のスピードはほぼ一定。だから連想という無意識レベルの効果がなくて、そのために会話がむずかしくなるだろうなという結論です。会話をするというのは、相手の話を聞いて、自然に自分の中で連想がわいて、ということの連続じゃないですか。でも、それがないわけだから、自然にできないんです。一方で、絵を見せると連想がよく働くことも分かって、つまり意味は分からないわけではないのに、言葉を使う時に連想が働きにくいわけです」

 ぼくたちは言語を当たり前のように使っているけれど、よくよく考えてみるととても不思議だ。書き言葉と話し言葉があって、それらが不思議な形と音を持っていて、目でその形を見たら音が頭に浮かぶ。しかも意味と結びつく。ものすごく複雑な処理をしている。自閉症を持つ人は、その一連の中のどこかがうまく働かなくて、連想が出にくくなるという見立てだ。

「それまでにも自閉症の支援では、絵で見て分かるように構造化していこうという、アメリカ、ノースカロライナ州で始まったTEACCHという環境調整を重視する(包括的な)アプローチがあって、視覚的な情報伝達を重視してきました。言葉ではなく、絵を使って伝えると、自閉症の子もよく分かるんです。ですから、わたしの研究で絵だと連想が働くという結果が出た時には、それを支持する例だと歓迎されました。経験上こうしたらいいって分かっている支援に、根拠を与えるような研究だったと思います」

 この時点で神尾さんの方向性がある程度、ほの見えているようにも思う。個々の患者を見つつも背景にある一般性、普遍性について見通したいという願いが強い、というか、治療の根拠となる科学的な知見をユーザーとして活用するだけではなく、みずから産出していこうとする「エビデンス・マインド」の萌芽を感じてならない。

 実際、神尾さんは、認知実験を続けていた90年代、まずはイギリスのロンドン大学付属精神医学研究所に留学し、さらにアメリカのコネチカット大学に研究員として滞在することで、1990年代に英米でまずは本格化していた根拠(エビデンス)に基づいた医療(EBM:Evidence Based Medicene)の新風に触れており、ちょうど勃興したばかりの精神医学分野のEBMを日本で実践していくことになる。

「アメリカから帰ってきて、九州大学大学院の人間環境学研究院という心理学系の大学院に赴任したんですが、そこでは、まずコホート研究(集団を追跡する研究)をしようとしたんです。アメリカの研究室にいた時に、大学院生が乳幼児のうちにスクリーニング(選別)できる尺度をつくって、これ日本だったらすぐできるなと思ったのがまずあって、1年間の出生が1000人ぐらいのとある町が乳幼児健診を改善したいと考えていて研究協力してくれることになったので、じゃあ、ここでコホートを作れないかと考えました。自閉症を発症した子の保護者で協力してくださる方が何人いるか分からないけれども、何年間かやって自閉症だけでも100人ぐらいの群を作れれば、いろんな多様性が見えるようになるんじゃないかと。結局、その態勢をとるにはちょっとお金もマンパワーも足りなかったんですが、その中で見えてきたこともたくさんあるんです」