では、「育て方」が原因ではないとして、他の環境の問題なのだろうか、それとも遺伝的な問題なのだろうか。本筋に入る前、ここで聞いておこう。

「双生児研究などで分かっているのは、発症に関しては環境よりも遺伝のほうが強く影響しているということです。もちろん、環境要因がないわけではありませんが。これまで、ゲノムの研究で自閉スペクトラム症に関連する遺伝子を見つける研究がさかんに行われ、本当にたくさんのものが見つかってきました。ひとつだけの遺伝子がこうなっていたから自閉症になるというわけではなく、数百以上もの遺伝子が関わっているようです。自閉症という言葉で括ることができるような似た病態に、様々な遺伝子が関わっているわけで、これは裏を返せば、自閉症の中での多様性につながっていると思われます」

とらえどころのない自閉症の共通性とは。
[画像をタップでギャラリー表示]

 自閉症についてのとらえどころのなさというのは、こんな部分に原因があるのかもしれない。にもかかわらず、よくよく注意すれば、ひとつの診断名で語ることができるような共通性があるのだから、ぼくたちの認識としては一まとまりのものになる。

 ここで、本筋に戻る。発達障害の中の一つである自閉症とは、どんなふうに発達に問題が出るのか。まさに多様な中の共通性とはなにか。

「とても簡単に言うなら、根本的な対人関係やコミュニケーションにかかわる発達に影響するものだということです。知的な遅れを伴うものから、伴わないものまで様々なケースがあるので、今では自閉スペクトラム症(ASD:Autism Spectrum Disorder)と名前も変わりました。診断は、2歳くらいからできます。同じ発達障害でも、ADHDとか学習障害はその時期にはまだ分からないんですよ。ほかの発達障害よりも早く分かることから、『自閉症とその他の発達障害』というふうにWHOが括ったり、ちょっと中心的に考えられているところもあります」

発達障害と括られているなかには、自閉スペクトラム症、ADHDのほか、不器用(発達性協調運動症)やLDなどが含まれる。それらは単独で現れることもあるが、たいていは2種類以上、合併することが多い。(画像提供:神尾陽子、『最新医学別冊 診断と治療のABC130 発達障害』神尾陽子著「Map 眼で見る発達障害」(最新医学社、2018)より転載)
[画像をタップでギャラリー表示]

 自閉症から自閉スペクトラム症へと名前と定義が正式に変更されたのは本当に最近のことで、2013年に改訂されたアメリカ精神医学会の診断マニュアルDSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル第5版)が契機だったという。改訂の際、古典的な自閉症も、知的な遅れを伴わないアスペルガー症候群なども、一つながりのものとして捉え直されることになった。

 スペクトラムとは、日本語としてはスペクトルのことだ。日光をプリズムに通すと、赤色からすみれ色まで、波長ごとに連続的に変化する色光、いわば「虹のスペクトル」を観察できる。自閉スペクトラム症(ASD)は、まさにそのイメージで、症状の軽重が連続的に変化するものと捉えられていている。

この連載の次の
記事を見る