あなたの知らない小麦畑
取材を終えた僕に、レイさん一家はデパートの袋いっぱいのお土産をくれた。中に入っていたのは「CANADA」と書かれた真っ赤なキャップをはじめ、カナダのストラップにカナダの地図を型どったキーホルダー、などなど。カナダの国旗まで入っていた。とにかくカナダ、カナダ、カナダなのだ。
ウクライナ系カナダ人は、自分たちが耕してきたカナダの大地を愛し、カナダ人であることに誇りを感じている。そして同時に、彼らはウクライナの文化も大切に守り続けている。その1つの例が、母国の伝統的なダンスだ。
エドモントンのウクライナ系カナダ人のコミュニティーには、祖国のダンスを受け継ぐグループが7つある。僕が取材したのはそのうちの1つで、「SHUMKA(シュムカ)」というグループだ。
ウクライナ語で「旋回する風」を意味するこのダンスグループには、16歳から30代前半までのダンサーが所属し、平日の午後7時から10時半までを週に3回と、日曜日の午前11時から夜まで、スタジオに集まって練習を重ねている。
これほど厳しい練習を重ね、時には海外公演まで行うのだが、彼らはプロのダンサーではない。本業は学生や看護師や学校の先生。自分たちの伝統文化を身に付け、受け継いでいくために踊りを続けているのだ。
カナダ人であると同時に、ウクライナ人でもあり続けられるのがカナダの大きな魅力の1つだし、だからカナダ人はカナダを大好きなのだと思う。そして、僕は自分の部屋で、レイさん一家にもらった「CANADA」と書かれた赤いキャップを見るたびに、彼らの「カナダ愛」を思い起こしている。ただし、このキャップをかぶる機会はまだ訪れていない。というより、僕にもあふれんばかりの「カナダ愛」があるのだが、日本で真っ赤なカナダキャップをかぶって歩く勇気がほんの少し足りないのだ。
この連載はカナダ観光局の提供で掲載しています。
著者 平間俊行(ひらまとしゆき)
ジャーナリスト。1964年、宮城県仙台市生まれ。報道機関での勤務のかたわら、2013年から本格的なカナダ取材を開始。歴史を踏まえたカナダの新しい魅力を伝えるべく、Webサイトや雑誌などにカナダの原稿の寄稿を続ける。2014年7月『赤毛のアンと世界一美しい島』(マガジンハウス)、2017年6月『おいしいカナダ 幸せキュイジーヌ旅』(天夢人)を出版。