カルガリー・スタンピードでのロデオ競技
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 カウボーイと聞けば、多くの人が米国を思い浮かべるに違いない。しかし、あまり知られてはいないが、カナダ西部にあるアルバータ州の中心都市カルガリーは、「カウタウン」の異名を持つカウボーイの街なのだ。

 本物のカウボーイはもちろん、カウボーイハットにウエスタンブーツ、大きなバックルの付いたベルトといったカウボーイスタイルの人たちが街を闊歩(かっぽ)している。ここでは毎年7月、世界最大のカウボーイの祭典「カルガリー・スタンピード」が開催される。

 スタンピードとは、家畜の群れが暴走すること。このイベントには世界各国からカウボーイと馬が集結し、見物に訪れる来場者は100万人を数える。賞金総額200万ドルという超リッチなロデオ競技が行われるなど、まさに「暴走気味」の大イベントなのだ。

 カルガリー近郊の丘では、放牧された牛たちがのんびりと草をはみ、その向こうには雄大なカナディアンロッキーの山々が広がっている。この丘にはかつて、野生のバッファローが暮らしていた。

 北米大陸でずっと生きてきたバッファローが選んだ丘だからこそ、牛にとっても最適の放牧地となった。だからカルガリーはカウタウンになれたのだ。

ずらりと並んだウエスタンブーツにはどれも靴ひもがない
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 ところで、カウボーイが履くウエスタンブーツには靴ひもがないのをご存じだろうか。いきなりこんな話題でけげんに思うかもしれない。しかし、靴ひもの有無は、カウボーイがどんな仕事をしているかにかかわる大事な問題なのだ。

 かつてカウボーイは、牧場で育てられた牛の群れを預かり、何週間もかけて移動させ、鉄道駅などで納品した。そのあと牛は列車で都会に運ばれて最終的に肉となり、消費される。つまりカウボーイ=牛追いとは、肉となる牛を預かって送り届ける運搬業者だと考えればいい。

 彼らが牛の群れとともに移動を続ける旅を、ロングドライブという。無事に納品できれば高い報酬を得られるが、途中で悪党どもに牛を奪われたり、スタンピードが起きて牛がいなくなったりすれば大損失だ。だから旅の間中、カウボーイは牛がはぐれないよう、馬に乗って群れの周囲を走り回ることになる。

 そんなカウボーイが馬上でバランスを崩すと、最悪の場合、体が傾いて落馬することがある。その際、片足が鐙の中にひっかかったままだと引きずられて大けがをしてしまう。だから万が一のときは、足がブーツからスポっと抜けて体は地面に落ち、馬はブーツをぶら下げたまま走り去っていくことが肝心なのだ。

 もし靴ひもを締めていたら、ブーツは簡単には脱げてくれない。だからウエスタンブーツには靴ひもがない。またウエスタンブーツは、鐙でしっかり踏ん張れるよう、ヒールが高く、土踏まずの内部には鉄製の板が入っている。

 単にウエスタンブーツといっても、実はなかなか奥が深いのだ。

カルガリー近郊の丘で放牧されている牛の群れ
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 時代は変わって冷蔵技術などが進み、つらく危険なロングドライブは過去のものとなった。牛を追うのではなく、牧場で牛の世話をするようになったカウボーイは、ヒールが低くて歩きやすいウエスタンブーツを履くようになった。相変わらず靴ひもはないけれど。そしてバッファローが好んだ丘では今も、たくさんの牛が放牧されている。

 このあたりの丘は降水量が多く、おいしいわき水がたくさん流れている。また冬になると、カナディアンロッキーから暖かく乾燥した「チヌーク」と呼ばれる局地風が吹き込んできて、積もった雪を解かしてくれる。おかげでバッファローは雪の下の草を口にすることができた。だからバッファローはこの丘を選んだのだ。

 先住民や、白人と先住民の間に生まれた「メイティ」と呼ばれる人たちは、バッファローとともに生き、必要以上にバッファローを殺すことはしなかった。しかしヨーロッパ人の入植が進むと、バッファローはハンティングの獲物として撃ち殺され、あっという間に姿を消してしまった。

 その後、カナダ政府はバッファローが消えた丘に牧場経営者を募る。その結果、ここでカナダを代表する味覚「アルバータビーフ」が生み出されることになった。

 カナダを訪れたら、ぜひこのアルバータビーフを楽しんでほしい。霜降り肉とは違い、肉本来の味が感じられる赤身肉だ。そして、おいしい水が湧く、チヌークの吹くこの丘をバッファローが見つけてくれたからこそ、この絶品ステーキが味わえることをちょっとだけ思い出してほしいのだ。

この連載はカナダ観光局の提供で掲載しています。

著者 平間俊行(ひらまとしゆき)

ジャーナリスト。1964年、宮城県仙台市生まれ。報道機関での勤務のかたわら、2013年から本格的なカナダ取材を開始。歴史を踏まえたカナダの新しい魅力を伝えるべく、Webサイトや雑誌などにカナダの原稿の寄稿を続ける。2014年7月『赤毛のアンと世界一美しい島』(マガジンハウス)、2017年6月『おいしいカナダ 幸せキュイジーヌ旅』(天夢人)を出版。

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