第5回 「日本は一気に世界一の水中考古学大国になる」わけ

「単純に水中考古学がメジャーじゃないからだと思います。たとえば海外ですとダイビングの最中に壷が見つかったとかですとか、漁をやっていて古い陶器が引っかかったりとか、砂浜を歩いていて木が地中から出てきたりしたら、やっぱり見つけた方は、沈没船かもしれないと思います。それで、地元の博物館や埋蔵物文化課に相当するところに連絡して、発見につながるんです。でも、日本では、そんなことがあっても、誰も沈没船とは思わないわけですね。世界じゅうの考古学の発見は偶然行われるものですから、水中にそういうものがあるかもしれないとみなさんが知っていないと発見につながらないです」

 なるほど、これは日本での恐竜の化石の発見に似ている。かつて日本からは恐竜の化石など出ないと思われていた時期があるのだが、ひとたび発見されるようになると、あちこちで見つかるようになった。これは結局、恐竜の骨が見つかるかもしれないということを、多くの人が知ったがゆえだ。

 というわけで、山舩さんは、日本でも水中考古学がもっとメジャーになることを望んでいる。この世界に関心を持ってくれる人へのメッセージはシンプルだ。

「もう単純に、おもしろいから一緒にやりましょうってことですよね。よくおもしろそうだねって言われるんですけど、実際におもしろいですから。やっぱり考古学、歴史学の楽しさがまずあって、いろんなところに行くことによって文化的交流とか視野も広がりますし、一緒にやってくれる人が増えればなと思っています。特に私の専門の船舶考古学については、いくら船が格好いいといっても、現状では、あまり知られていないアイドルを応援しているみたいなものなので、そのアイドルがもっとメジャーになって、この曲はいいねって分かち合う仲間が増えたら楽しいと思うんです。なので、とりあえず楽しいと思う方は飛び込んできてくださいと、いいたいんです」

 これは若者に対するメッセージではない。年齢問わず、情熱のある人を求む、だそうだ。水中考古学は特別なものではなく、既存の考古学の知識と経験に水中でのスキルを加えれば成立しうる。日本の水中考古学が、十年後、世界に確固たる存在感を示していることを期待しているし、期待できるのではないかと感じることしきりだった。

「とりあえず楽しいと思う方は飛び込んできてください」と山舩さん。年齢問わず、情熱のある人を求む!
「とりあえず楽しいと思う方は飛び込んできてください」と山舩さん。年齢問わず、情熱のある人を求む!
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おわり

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ブログ「カワバタヒロトのブログ」。ツイッターアカウント@Rsider。有料メルマガ「秘密基地からハッシン!」を配信中。