第5回 「日本は一気に世界一の水中考古学大国になる」わけ

 クロアチアでも、水中考古学の花形は船舶考古学だという。山舩さんが学生時代から関わり続けているグナリッチ沈没船は、1583年、ベネチアからコンスタンチノープル(現在のイスタンブール)に向かう途中の商船がクロアチア沖に沈んだもので、30メートルという深度が幸いして、盗掘にあわずに済んでいた。当時のヨーロッパ文化の中心地のひとつだったベネチアから、オスマン・トルコ帝国の宮廷で使うために発注された5000枚もの窓ガラス、装飾品、シャンデリアなどが積まれており、20世紀中に一度は調査されていた。しかし記録が十分でなかったため、2010年代には水底の船底部分を含めて本格的な調査が行われることになったのだった。このプロジェクトの成果は、地元でも世界的にもやはりニュースとして報道されたものだ。

グナリッチ沈没船の調査の様子。(Photo Credit:Kotaro Yamafune)
グナリッチ沈没船の調査の様子。(Photo Credit:Kotaro Yamafune)
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 日本でも沈没船の考古学は、今後、とても期待できる分野だという。すでに熱海市の初島沖の江戸時代の沈没船が知られているし、長崎県松浦市の鷹島沖では2010年代になってから元寇船が立て続けに2隻発見された。水底での保存状態にいずれも驚かされるものだった。しかし、まだ、山舩さんが各国で経験してきたような本格的な調査には至っていない。

 さらに言えば、日本での沈没船は、こんなものではないはずだと山舩さんは考えている。もっと沢山の沈没船が、今も知られないまま発掘調査を待っている、と。

「だって本当に、沈んでないはずないです。特に巨大な四角形の帆を携え、全長30メートルを超えることも多かった弁才船(べざいせん)などの和船なんて、もう江戸時代の流通、経済を支えていましたから。日本海海運で活躍した北前船であり、江戸と上方を結んだ菱垣廻船(ひがきかいせん)であり、日本じゅう、どこも輸送は船で行われていたんですね。さらに、船舶考古学的に期待が持てるのは、昔の日本では今のような港が少なくて、ちょっと離れた位置から小型の伝馬船で行き来していたことです。そのおかげで、現在の埋め立てや護岸工事で沈没船が潰されていない可能性があるんです。あともう1つ、台風の影響です。元寇船も、台風で沈んでますよね。風待ちの港って日本にたくさんあって、そこで船を中に入れて、ある方向からの風には守られても、台風は通過する時に短時間で風向きが変わるので、その時に全部沈んでしまうことがありますから」

 本当におびただしい数の船が沈み、そのうちのかなりのものが海底に保存されているはずというのが山舩さんの合理的な推測だ。しかし、いまだに多くは知られていない。いったいなぜなのか。

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