第5回 「日本は一気に世界一の水中考古学大国になる」わけ

 2006年に大学を卒業してすぐに渡米した山舩さんにとって、新型コロナウイルス感染症のパンデミックは、ひさしぶりに日本で長い時間を過ごす機会になった。最初の緊急事態宣言の間には、日本語のウェブサイトやブログを充実させ、YouTubeで船舶考古学講座を開講したりもした。

 当然、日本で水中考古学や船舶考古学に関心を持つ人たちとも多く接触する機会があったはずだ。現状、日本において沈没船の大きな発掘プロジェクトがメディアで話題になることはあまりない。海外ニュースでは、地中海の古代船、北欧のバイキング船、カリブ海の海賊船や貿易船などの沈没船調査の話題をよく見るのに、国内のニュースとしては「静か」な印象だ。こんな日本の現況は、山舩さんの目にはどのように映ったのだろうか。

世界の水中考古学をよく知る山舩晃太郎さん。その目に日本の状況はどう映っているのだろうか。
世界の水中考古学をよく知る山舩晃太郎さん。その目に日本の状況はどう映っているのだろうか。
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 山舩さんは、まずは力強く、「可能性しかない、ですね」と請け合った。

 まだ手を付けられていない部分が多いという意味で「可能性」という表現になるが、それは、すなわち、これから大きな期待ができるということでもある。

「というのは、日本の陸上の考古学の仕組みが、世界一優秀といってもいいんです。海外では国に大きな研究所があったり、あるいは日本の県に相当するような地域ごとに考古学研究所があるんです。一方、日本の場合は、市町村レベルで、埋蔵文化センター、埋蔵文化財課という組織があって、そこに公務員として考古学の担い手がたくさんいるんです。彼らは大学の先生よりもずっと現場に出ているので、何より経験がありますし、地元のことをすごくよく分かっています。発掘もできて研究もできる。こんなに質の高いプロの考古学者がそろっている国って日本ぐらいしかありません」

 つまり、山舩さんは、既存の市町村の埋蔵文化財課が陸上だけでなく、水中にも目を向けるべきなのではないかと言っているのである。本連載の1回目でも、考古学的な探求の本質としては陸も水中も区別はないと山舩さんは強調していたことを思い出そう。

「彼らが少しでも水中文化遺産に興味を持って、その土地の水没遺跡、水中遺跡を研究し始めて、それをレポートにまとめ始めたら、日本は一気に世界一の水中考古学大国になるでしょうね。それぐらい、日本って考古学が充実している国ですよ」

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