第4回 世界の沈没船の発掘現場を次々とめぐって気づいたこと

「それまで私は本当に絵に描いたような考古学者といいますか、しっかりと自分の責務として歴史の謎を解いて正しい歴史を伝えるということが使命みたいに感じていたんです。でも、ここで歴史というものはそれぞれの解釈があるんだなと思わされました。私は考古学者として、真実を解き明かさないといけないっていうのは今も変わらずにあります。だからといって他の方がどういうふうに解釈するかまで考えるというのは、研究者のエゴでしかないのではないか。言い換えれば、考古学者は歴史をひもとく『通訳者』であるだけでなく、人々と遺跡をつなぐ『橋渡し』の仕事をしなきゃならないんだな、と。子どもたちの笑顔に接しながら、こういった文化遺産を守り、『橋渡し』して共有できる考古学者になりたいと思ったんですよね」

 考古学者としての使命感に燃えて、「正しい歴史」を解明し、現地の人にも学術的なことを「通訳」として伝えるだけではなく、きちんと記録した上で「橋渡し」して委ねるというのが、特異な経験をしている山舩さんがたどり着いたところなのである。

取材は2021年の年末に行われた。
取材は2021年の年末に行われた。
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 さて、2022年になっても、新型コロナウイルス感染症によるパンデミックの動向は不透明だ。しかし、山舩さんの手帳にはすでにいくつものプロジェクトの日程が書き込まれているという。どんな国々なのか問うたところ、手帳を取り出して読み上げてくれた。

「サイパン、コロンビア、フィンランド、トルコ、デンマーク、アメリカ、モンゴル、ギリシャ、クロアチア、コスタリカ、ジャマイカ、11カ国が2022年の予定です」と。

 多くがすでに山舩さんが一度ならず調査で訪れたことがある国々だが、モンゴルと聞いて、おやっ、となった。山舩さんのフィールドとしてはじめて耳にするものだし、なにより、モンゴルは内陸国だ。

「湖があって、そこにまつわる信仰で、たくさんの方が昔から物を沈めているんですよね。だから沈没船ではないんですが、最近、ロシアのトレジャーハンターが来て、それらを引き上げて持ち去ってしまうのが問題になっています。そこで私の友人たちが、地元の人たちを対象に水中考古学とは何ぞやというワークショップを開いているんですけど、難航しているそうです。やはり内陸国なので、スキューバ機材とかタンクの調達、空気を入れることすら大変ですし。そこで、水中ドローンを使った文化遺産のモニタリングを現地の考古学者の方たちに教えることになりました。ドローンなら、地元の方のハードルも少し低くなると思うので」

 今年、こういったことが実現するかどうかは、いまだ不透明であることに変わりはないけれど、ふたたび可能になり次第、山舩さんは「文化祭を渡り歩く」ような軽やかさで、水中にある文化財を、記録し、研究し、橋渡しするサイクルを回し続けることだろう。

つづく

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2022年4月号

南米ギアナ高地 最後の秘境へ/海底の奴隷船を探して/ガーナ 海に生きる人々/不思議なタツノオトシゴ/美しい鳴き声ゆえに

35年にわたり新種を探してきた79歳の研究者が、南米ガイアナの密林で最後の調査に挑戦。彼が目指したのは人を寄せつけない断崖絶壁でした。特集「南米ギアナ高地 最後の秘境へ」で詳しくレポートします。このほか、「海底の奴隷船を探して」「不思議なタツノオトシゴ」など5本の特集をお届けします。

定価:1,210円(税込)

山舩晃太郎(やまふね こうたろう)

1984年3月生まれ。2006年法政大学文学部卒業。船舶考古学博士。テキサスA&M大学・大学院文化人類学科船舶考古学専攻(2012年修士、2016年博士号修得)。合同会社アパラティス代表社員。西洋船(古代・中世・近代)を主たる研究対象とする考古学と歴史学の他、水中文化遺産の3次元測量と沈没船の復元構築を専門とする。著書に『沈没船博士、海の底で歴史の謎を追う』(新潮社)がある。

川端裕人(かわばた ひろと)

1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、肺炎を起こす謎の感染症に立ち向かうフィールド疫学者の活躍を描いた『エピデミック』(BOOK☆WALKER、集英社文庫)、クライミングと地学でそれぞれの五輪を目指す高校生の青春小説『空よりも遠く、のびやかに』(集英社文庫)など。
本連載からのスピンアウトである、ホモ・サピエンス以前のアジアの人類史に関する最新の知見をまとめた近著『我々はなぜ我々だけなのか アジアから消えた多様な「人類」たち』(講談社ブルーバックス)で、第34回講談社科学出版賞と科学ジャーナリスト賞2018を受賞。ほかに「色覚の進化」から派生した『「色のふしぎ」と不思議な社会 ――2020年代の「色覚」原論』(筑摩書房)など。新型コロナ感染症の流行初期から「第一波」を乗り切るまでの体験をまとめた『理論疫学者・西浦博の挑戦 新型コロナからいのちを守れ!』(中央公論新社)で2021年科学ジャーナリスト賞を受賞。近著は、17世紀に日本に来ていた鳥ドードーの足跡を追いかけた探究の物語『ドードーをめぐる堂々めぐり――正保四年に消えた絶滅鳥を追って』(岩波書店)。
ブログ「カワバタヒロトのブログ」。ツイッターアカウント@Rsider。有料メルマガ「秘密基地からハッシン!」を配信中。