第4回 世界の沈没船の発掘現場を次々とめぐって気づいたこと

「歴史を守ることの重要性について、180度考えを変える機会があったんです。2015年、トリニダード・トバゴというカリブ海のベネズエラのちょっと北にある島での発掘です。17世紀のオランダ船の発掘で、私のかつてのテキサスA&M大学での同級生が中心となってプロジェクトを行うというので、手伝いに行きました。そのとき、私はすごく不安だったんです。というのは、トリニダード・トバゴのトバゴ島は貧しくて、建物もちゃんとしたコンクリートのものは少ないし、警察官が機関銃を持っているような物騒なところでした。そこに、私はアメリカの研究チームの1人として、文化財を守る目的で訪ねたんですけど、実は、本当にそれでいいのかなという思いがあって……」

 山舩さんがこの時参加した発掘調査は、1677年に起きた海戦で沈んだ船にかかわるものだった。海底が岩とサンゴ礁なので船体は残っていないものの、散らばった大砲と積み荷からオランダ船であるとすでに分かっていた。17世紀のカリブ海における海戦というのだから、十分すぎるほどの文化財だ。では、山舩さんが「それでいいのか」と不安になったのは、どの部分だろう。

「トバゴ島に住んでいるのはほとんどがアフリカ系の方々なんですが、現地で聞いたところ、かつて奴隷貿易の中でもかなりハードなところだったそうなんです。というのは、アフリカから連れてこられた方々が、最初にはフロリダとか、ニューオーリンズ、メキシコ、コロンビアとか、そういったプランテーションのあるところに連れていかれ、そこで降りなかった人々が最後に連れてこられるのがトバゴでした。なので、船に乗っている時間も長いですし、過酷な旅を強いられた人たちです。そういったところにヨーロッパ系の子孫のアメリカ人が中心となったチームが来て、オランダ船を指して『君たちの文化遺産だから』というのはどうなのか、歓迎されないんじゃないか。この豊かな国のやつが何を言ってるんだ、となるんじゃないかなと思って不安でした」

 これはたしかに考えうる批判だ。そもそも、かつては考古学の発掘自体が裕福な国の道楽、いや、それどころか、その文化遺産を自国に持ち帰り、博物館にしまい込んでしまう窃盗的な行為だと批判されたこともあった。だから、今は考古学の調査で見つかったものは、まずは見つかった地域、国で保管されることが基本になっていると聞く。一方、今回は、当事国の歴史の負の部分にかかわる発掘を、その負の部分を作り出した側に近い外国人が行うことが微妙な部分だった。「今さらきみたちにそんなものを見せられたくない」という反応を想定するのは、自然なことではあった。

「でも、現地では政府の方ですね、まずトバゴ島の役人の方とか、すごく協力的だったんです。彼らにしてみると、沈没船という文化遺産は、将来の観光資源にもなりえます。私たちの基地に引き上げた遺物や3Dモデルを展示して、現地の子どもたちに見せる機会も作ってもらえました。そうしたら、子どもがものすごく喜んでくれて、あれ、何か自分の考えていたのと全然違うなと思いました。子どもたちにしてみると、いつも自分たちの海で泳いで潜っていたんだけど、その下に大砲があるのも知らなかったし、壷があるのも知らなかったということでびっくりするんですね。何か未知のものが海底に沈んでいる、と目を輝かせる。一方、大人たちは、研究が進んで博物館とかができれば、アメリカとかヨーロッパからたくさん観光客が来ると。とてもいいことをやってくれているというふうに協力してくれたんです」

大砲を使ってフォトグラメトリの練習をする子どもたち。2015年、トリニダード・トバゴ。(Photo Credit:Kotaro Yamafune)
大砲を使ってフォトグラメトリの練習をする子どもたち。2015年、トリニダード・トバゴ。(Photo Credit:Kotaro Yamafune)
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 考古学者にとって、調査はまずその遺跡の記録をきちんと取ることから始まる。そして、そこから、正確な歴史の解釈をしていくのが仕事だ。山舩さんは考古学者としての訓練でそれを叩き込まれている。さらに、その歴史の解釈をできるだけ正確に伝えていくことも、また自らの責務だと山舩さんは思っていた。トリニダード・トバゴでの体験は、その点に違う視野を拓いた。

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