第3回 水中考古学の革命フォトグラメトリとその先に見えるもの

 水中考古学者・船舶考古学者の山舩晃太郎さんは、水中での発掘現場に、写真から情報を引き出して3Dモデルを作るフォトグラメトリという技術を導入した功労者だ。

 今回は、その一連の流れを聞いていく。

 まずは、水中での発掘調査の基本から説き起こさなければならない。それも、「水中考古学を学問にした」ジョージ・バス博士がもたらした、「学問性」の根幹である部分、つまり「記録」にまつわることだ。

水中考古学におけるフォトグラメトリの第一人者として活躍する山舩晃太郎さん。
水中考古学におけるフォトグラメトリの第一人者として活躍する山舩晃太郎さん。
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「考古学としての基本は記録なので、水の中に潜って何かが出てきたら、必ず出土した位置をスケッチで描いておきます。また、発掘現場はグリッドで分けてあるので、グリッドのどこから見つけたのか測ってきちんと記録していきます。1個出土するたびに、記録だけで5、6分かかります。それが場所によっては何百、何千と遺物が出てくるので、もう全然終わらないわけですね。でも、水中考古学者は、それをきちんとやって発掘を進めるんです」

 何百、何千と遺物が出てきたら陸上ですら大変だし、ましてや水中では陸上でのような細密なスケッチが描きにくかったり、そもそもダイバーの潜水病などを防止するために、作業時間も厳しく限定される。今のところ世界最古であるトルコのウルブルン沈没船は、45メートルよりも深いところで、船の木材や大量の積み荷が発見されたため、作業が長期にわたったことが知られている。1984年から94年までの11年間、毎年約3カ月の発掘調査を行い、合計潜水作業も約2万3000回にも及んだというのは、この業界でも伝説級の発掘規模だ。

 そのような地道な発掘現場の実情を知った上で、山舩さんがフォトグラメトリと向き合った直接のきっかけは、実は「記録」ではなく、むしろ自分の研究テーマから導かれた「精度」の問題だったという。

「実は、フォトグラメトリ自体は結構昔から使われていて、遺跡の状態を3Dにしてパソコン画面で見るのには活用されていました。でも、精度が悪くて研究には使えないというのがその当時の一般常識でした。私が関心を持ったのは2014年頃で、ちょうど精度がよくなっていた時期です。自分がやっていた船舶史の研究で、船のフレームの曲がり具合や、組み合わさり方を緻密に実測して、調べなければならないのに、精度が心配になりました。水中で20センチごとに分度器をあてて曲がり具合を測定するんですけど、それが測定する人によって違って、10メートルぐらい先になるとかなりずれています。私がやりたい研究ではフレームを何十本も正確に測らないといけないのに、これでは緻密な研究なんかできるわけがないんですね」

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