第1回 世界を股にかけて活躍する気鋭の水中考古学者

 船が沈没するのは、悲劇である。乗っていた人たちは生命を奪われるリスクがとても高く、積み荷は失われる。

 しかし、沈没して何百年、時には三千年以上もたった船が、現代を生きるわたしたちに、贈り物をくれることもある。積み荷の重さで水底に押し付けられて、船体の下部と積み荷が海底の砂に埋もれた場合、その部分が「無酸素」状態になり、船を構成する木材や積み荷の中の有機物すら、長期間、保存されることがあるからだ。その場合、沈没船は、陸上の遺跡をはるかにしのぐ貴重な発見に満ちたタイムカプセルとなりうる。

水中考古学・船舶考古学者の山舩晃太郎さん。フォトグラメトリという手法の第一人者だ。
水中考古学・船舶考古学者の山舩晃太郎さん。フォトグラメトリという手法の第一人者だ。
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 このたび、新進気鋭の水中考古学・船舶考古学者、山舩晃太郎さんに話をうかがう機会があった。山舩さんは、2010年代にテキサスA&M大学の大学院生として学術調査に参加するようになってから今に至るまで、「沈没船」をめぐって、まさに7つの海を股にかける活躍を続けている。かかわった発掘プロジェクトはすでに21カ国にも及ぶ。

 例えば、新型コロナ感染症が世界を席巻する直前の2019年、山舩さんが水中考古学の調査などで訪れた国は、クロアチア、ミクロネシア連邦、コスタリカ、アメリカ合衆国、マルタ、スペイン、トルコと7カ国に及んだ。

 簡単に素描してみる。

 山舩さんが拠点を置く国の1つであるクロアチアには、年初から幾度となく発掘調査や指導のために滞在した。発掘に参加した中でも、グナリッチ沈没船(16世紀後半にベネチアからイスタンブールに向かう途中で沈没した商船。「グナリッチ」は地名)は、山舩さんが2012年からかかわり続けている、個人史的にも重要な沈没船だ。

グナリッチ沈没船の発掘現場。約420年前この岩の小島にベネチアを出航した商船が座礁して船が沈没した。(Photo Credit:Sebastian Govorcin/University of Zadar)
グナリッチ沈没船の発掘現場。約420年前この岩の小島にベネチアを出航した商船が座礁して船が沈没した。(Photo Credit:Sebastian Govorcin/University of Zadar)
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山舩さんが作成したグナリッチ沈没船のフォトグラメトリから制作した3D動画

次ページ:トルコやミクロネシアの様子

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