そして、異星で生命が見つかった! と分かったその瞬間、大いに達成感があると同時に、自分の中の世界に対する心持ちのようなものが変わる気がする。それが本当に微生物のように小さなものだったとしても、ものすごいインパクトがある。

 藤島さんものこの点に大いに同意する。

「人間社会の全ての分野に大きな影響があると思っています。結局、生命っていうのは、人間も生命そのものなので、我々以外に生命がいたってことが分かった瞬間に、つまり太陽系内で2種類違う生命体が見つかった瞬間に、恐らくこの宇宙は生命であふれかえっているという意識になりますよね。宇宙が暗くて寂しいようなイメージだったのに、すごく彩りのある、にぎやかな、さまざまな生命の可能性にあふれている場所に変わるので、そこのパラダイムシフトっていうのは大きいと思いますね」

 本当にそうだ。ぼくたちが住んでいるこの世界、この宇宙そのもののイメージが根本的に変わる。これまで、だだっぴろい砂漠のような宇宙に地球生命がポツンといるだけだったのが、いきなりまわりに様々な生き物の賑わいが登場して「うわーっ」と声を上げたくなるような違いが生まれる。

「つまり、宇宙観、生命観が大きく変わります。我々が特別な存在であったと思っている人がいるとしたら、そうじゃなくなったということです。ある意味、我々を外から客観的に見られるような、そういう意識を持つことにもつながるんじゃないでしょうか。僕が、ひとつ起きてほしい未来として思っているのは、地球上の戦争がなくなってほしいなってことなんですよね。つまり、今は人間同士で、例えば肌や目の色の違いとか文化の違い、生まれたところの違いみたいな、生命の多様性の枠で考えれば本当に些細な違いで争いを起こしたりしてるわけですよね。あるいはこの地球上にあるリソースをいかに取り合うかっていうところで争っているわけです。それって人間のエネルギーの使い方としては最も不毛だと思うんです。でも、そこからポッと離れたところに別の生命という点が打たれたとすると、『あれ、おれたちこんなところで何やってたんだろう』っていう、そういうものの見方になるかも、と思うんです。だから、ある意味、宇宙生物学っていうのは地球の平和にもつながるような学問かなと思っています。宇宙生命が見つかることで、人間の目が地球の外に向くと」

 生命の起源について考え、枠組みが地球を超えて宇宙に広がったところで、いつの間にか世界平和、地球の平和の話になってしまった。

 楽観的すぎるかもしれない? そうかもしれない。

 しかし、宇宙生物学はそれだけのインパクトを秘めた研究分野であることだけは間違いない。

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おわり

藤島皓介(ふじしま こうすけ)

1982年、東京都生まれ。東京工業大学 地球生命研究所(ELSI)「ファーストロジック・アストロバイオロジー寄付プログラム」特任准教授、慶應義塾大学 政策・メディア研究科特任准教授を兼任。2005年、慶應義塾大学環境情報学部を卒業後、2009年、同大学大学院政策・メディア研究科博士課程早期修了。日本学術振興会海外特別研究員、NASA エイムズ研究センター研究員、ELSI EONポスドク、ELSI研究員などを経て、2019年4月より現職。

川端裕人(かわばた ひろと)

1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、『天空の約束』(集英社文庫)、NHKでアニメ化された「銀河へキックオフ」の原作『銀河のワールドカップ』(集英社文庫)とその“サイドB”としてブラインドサッカーの世界を描いた『太陽ときみの声』(朝日学生新聞社)など。
本連載からのスピンアウトである、ホモ・サピエンス以前のアジアの人類史に関する最新の知見をまとめた近著『我々はなぜ我々だけなのか アジアから消えた多様な「人類」たち』(講談社ブルーバックス)で、第34回講談社科学出版賞と科学ジャーナリスト賞2018を受賞。ほかに「睡眠学」の回に書き下ろしと修正を加えてまとめた『8時間睡眠のウソ。 日本人の眠り、8つの新常識』(集英社文庫)、宇宙論研究の最前線で活躍する天文学者小松英一郎氏との共著『宇宙の始まり、そして終わり』(日経プレミアシリーズ)もある。近著は、世界の動物園のお手本と評されるニューヨーク、ブロンクス動物園の展示部門をけん引する日本人デザイナー、本田公夫との共著『動物園から未来を変える』(亜紀書房)。
ブログ「カワバタヒロトのブログ」。ツイッターアカウント@Rsider。有料メルマガ「秘密基地からハッシン!」を配信中。

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