「実は、慶應で当時修士学生だった高萩航くん(現在、東大の博士課程)が、エンケラドスの模擬熱水-岩石反応を再現したときに、そこにアミノ酸を入れるとつながってペプチドになるかという実験をやりました。すでに学会でも発表したのですが、結論を言いますと、つながります。2つのアミノ酸がつながったペプチドができます。なぜこの実験をやったかというと、エンケラドスの環境でペプチドが見つかったとして、それが生命の存在を示すものなのかどうか判別したいわけです。そのためには、まず生命反応を全く介さない、ただの岩石上での触媒反応でできるペプチドのセットを知っておけば、実際に行った時に答え合わせができますよね。そして、答え合わせをしたときに、ちょっと待てよ、なぜかできるはずのないアミノ酸があって、かつそれが鎖になってつながっている、となれば、要は惑星科学的には説明できない何らかの、恐らく地球外生化学的な反応が起きている可能性が高いわけです」

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 以上が、藤島さんの担当である「何を見つけたら生命がいるか」という話だった。

 一方、2つ目の担当である「いかに確保して、分析するか」の方も、なかなかおもしろい。

「相対速度が秒速4~6キロメートルって、マッハでいうと12~18くらいなんですよ。そんな速度で金属面のような固体にぶつかると、衝突時に発生する熱で小さな物質の粒子はイオン化してしまうんです。カッシーニ探査機のエンケラドスへの相対速度はそれよりもさらに速かったので、それを逆手にとってイオン化したものをそのまま質量分析器にかけて分析していました。でも、僕たちはできれば有機物を変性させずにそのまま分析したいんです。それで、シリカでできたエアロゲルと呼ばれるふわふわの素材を使うことにしました。プリュームの中にあることを想定したペプチドを合成して微粒子にして、JAXAの宇宙科学研究所にある超高速衝突実験施設で実際に打ち出す実験をして、ペプチドを一部変性させずに捕集・抽出することができると分かりました」

 実験で実際に使ったエアロゲルを見せてもらったが、本当にふわふわで軽い素材だった。猛烈な速度で微粒子を打ち込まれた痕が、少し焦げたように深く穿たれていた。微粒子の大きさは直径100マイクロメートルから200マイクロメートルくらいだったというから、この速度ではそんな小さなものでもものすごい運動エネルギーになるのだと実感できる。

 以上のように、藤島さんは自身の担当の部分を基本的にはクリアして、あとはやがてエンケラドス探査計画が正式にスタートするのを待っている。宇宙に探査機を送るような計画は、常に「待ち」になってしまいがちだが、藤島さんは一貫して喜々として語るのが印象的だった。

ケースの中に入っている白い綿のようなものがエアロゲル。本当に軽くてふわふわしている。
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