第6回 もしも異星で生命が見つかったら何が起きる?

「いやあ、もう非常に楽しいですね。普段は実験室で分子進化の実験をやっているので、そこで扱っている分子が、宇宙探査の生命徴候の一つになり得る、候補の一つになれるというわけですから。同じアストロバイオロジーという枠の中で、実験室での研究と宇宙探査という毛色が違うことをやっていると、片方でやった成果をもう片方に応用して、それで分かったことからまた新しいことが分かる、みたいなことがあります。そして、宇宙探査で生命を見つけるというのは、我々が知っている生命の母数を1から2にするというとても大きなミッションです。本当にやりがいのある仕事です」

 我々が知っている生命の母数を1から2に。

 藤島さんはその点を強調した。

 ここから先は、想像を逞しくしてみよう。

 現時点の科学的知識に基づきつつも、エンケラドスにはどんな生命がいる可能性があるのだろうか。ぜひ、知りたい!

 藤島さんに問うたところ、思いの外、真剣な思案顔になった。宇宙生物学者としていい加減なことは言えないと、つまり、研究者の沽券に関わる質問であったと気づいた。

「エンケラドスは、これまで大きな熱を受けてこなかった、つまり一度もコアが溶けて、溶融してくっついていないっていうことがもう分かっているので、恐らく最高でも数百℃にしかならず、潮汐加熱(※)による持続的な熱水活動が続いていると考えられます。つまり海水は集積した時の有機物を含み、それが多孔質で表面積が大きい岩石コアと触れ合っている状態です。そこで“エンケラドス生命”が誕生するとすれば、そこはやはり鉱物表面だと思います。そして、やっぱり『個』が必要であるとすれば、恐らく有機物でできた皮膜みたいなものに覆われてるだろうと。なので、僕は、単細胞の微生物みたいなもの、あるいは微生物になる以前の、いろんな有機物が混ざり合いながら交換し合ってるような、そういう総体を今思い描いてますね。たぶんサイズ的にはかなり小さいのかなと、それぐらいの想定ですね」

エンケラドス生命探査のPV (動画提供:藤島皓介、WOW Inc.)

 異星の生命だからといって異形のものというのはちょっと飛躍しすぎのようだ。

 ただし、実はディテールが大いに違う可能性はある。

「宇宙で見つかるアミノ酸の数は、実は我々がタンパク質に使っている20種類よりもずっと豊富で、今80種類ほど見つかっているんですね。別の天体の生物がアミノ酸をつなげて使っているとしても、同じ20種類とは限らないですよね。今、合成生物学では、例えば大腸菌に人工的なアミノ酸を導入して、人工アミノ酸が入った人工タンパク質を作るようなことができるようになっています。使うアミノ酸が20種類より多くたっていいんです。また、同じようなセントラルドグマを持っていたとしても、地球生命の遺伝暗号表と同じとは限りませんよね。それが同じだったら、むしろ起源が同じなのかもしれないと考えなければならないでしょう。そして、それ以上に想定外のことが起きたら、それはもう、うれしいですよ。間違っててよかったなって思いますよね。本当に。どんなものにせよ、地球外の生命の発見は自分が生きている間に実現すると信じています」

 これについては、本当にぼくも同じ思いだ。できれば、自分が生きている間に、違う天体の生命が見つかったというニュースを聞きたい。その際、見つかった生命が、地球のものに似ていても、違っていても、どちらにしてもうれしい。

※天体の間で起きる重力作用(潮汐力)により内部で摩擦熱が発生する現象