氷衛星は、木星の衛星エウロパだけではない。藤島さん自身がターゲットとして考えているのは、別の惑星の氷衛星だ。

「僕自身は土星の衛星のエンケラドスに非常に注目しています。2005年に、カッシーニ探査機がエンケラドスの近くをフライバイしたときに、プリュームといって海の水が噴き出ているのを見つけたんです。そのプリュームの成分をカッシーニに搭載されている分析器で分析したところ、ほとんど水なんですけど、その中に単純な有機物や、ナトリウム、カリウムといった海に溶けている塩の成分が見つかりました。あと、ナノサイズのシリカの結晶が見つかって、そこから逆算して環境要件を絞り込んでいくと、60℃以上の熱水活動があり、水と岩石の相互作用もあるだろうと分かっています」

エンケラドスをフライバイするカッシーニ。(イラスト:NASA/JPL-Caltech)
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 エンケラドスの内部の海には熱水活動があり、そこで岩石と水が相互作用している。これは、原始地球で生命を育んだ可能性がある海底の活動と似ている。

「要はエンケラドスの中心核を形成している岩石と水が反応することで、熱が発生して、そこでエネルギー源となる水素も出てくる。そこで水素を食うような、化学反応、それこそ生化学反応みたいなものがあるかどうかというのがターゲットです。僕自身は、今JAXA 宇宙科学研究所の矢野創さんと一緒に、エンケラドス探査実現のための肝となるサンプル採取・分析技術の基礎研究を進めています。矢野さんは『はやぶさ』と『はやぶさ2』探査の両方でサンプル採取装置の設計、開発、運用、回収を担当をされている方です。2010年に『はやぶさ』が帰還したときに、オーストラリアのウーメラ砂漠でカプセルを自ら回収して、宇宙研の分析施設までつきっきりで輸送を担当された人でもあります」

 藤島さんや矢野さんが提唱するエンケラドス探査はまだあくまで検討段階だが、宇宙生物学の王道を行くものとして注目に値する。「はやぶさ」から「はやぶさ2」への流れでは、太陽系の由来を明らかにするという関心に加えて、水や炭素など生命にとって必須の物質の起源を問う方向へと関心がシフトしていったことを考えると、やはり今世紀の宇宙探査が目指す究極の問いは「宇宙における生命の起源」なのかもしれない。

つづく

藤島皓介(ふじしま こうすけ)

1982年、東京都生まれ。東京工業大学 地球生命研究所(ELSI)「ファーストロジック・アストロバイオロジー寄付プログラム」特任准教授、慶應義塾大学 政策・メディア研究科特任准教授を兼任。2005年、慶應義塾大学環境情報学部を卒業後、2009年、同大学大学院政策・メディア研究科博士課程早期修了。日本学術振興会海外特別研究員、NASA エイムズ研究センター研究員、ELSI EONポスドク、ELSI研究員などを経て、2019年4月より現職。

川端裕人(かわばた ひろと)

1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、『天空の約束』(集英社文庫)、NHKでアニメ化された「銀河へキックオフ」の原作『銀河のワールドカップ』(集英社文庫)とその“サイドB”としてブラインドサッカーの世界を描いた『太陽ときみの声』(朝日学生新聞社)など。
本連載からのスピンアウトである、ホモ・サピエンス以前のアジアの人類史に関する最新の知見をまとめた近著『我々はなぜ我々だけなのか アジアから消えた多様な「人類」たち』(講談社ブルーバックス)で、第34回講談社科学出版賞と科学ジャーナリスト賞2018を受賞。ほかに「睡眠学」の回に書き下ろしと修正を加えてまとめた『8時間睡眠のウソ。 日本人の眠り、8つの新常識』(集英社文庫)、宇宙論研究の最前線で活躍する天文学者小松英一郎氏との共著『宇宙の始まり、そして終わり』(日経プレミアシリーズ)もある。近著は、世界の動物園のお手本と評されるニューヨーク、ブロンクス動物園の展示部門をけん引する日本人デザイナー、本田公夫との共著『動物園から未来を変える』(亜紀書房)。
ブログ「カワバタヒロトのブログ」。ツイッターアカウント@Rsider。有料メルマガ「秘密基地からハッシン!」を配信中。

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