「やはりそれも難しいんですが、幅広く受け入れられる説明を2つします。ひとつは、専門的な言葉になりますが、『非平衡状態の開放系』、つまり物質やエネルギーの出入りを許す構造を持つということです。これは、地球化学、生物物理、生化学の知識がある方には馴染みやすい説明だと思います。地球あるいは太陽から得られる様々なエネルギーを利用して絶えず有機物と金属を中心とした反応ネットワークの構造を維持しています。つまりは代謝をしていると言い換えてもいいかもしれません。一方で『進化可能な自己複製系』というのもあって、これは、微生物学、進化生物学、分子生物学などに馴染んだ人には納得しやすいと思います。それぞれ生命のどの面を重視しているかの違いです」

2つの見方である「代謝」と「進化」のうち、まずは代謝から聞いていこう。
2つの見方である「代謝」と「進化」のうち、まずは代謝から聞いていこう。
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 藤島さんが挙げた「2つの説明」のうち、前者は、要するに代謝すること、つまり、ぼくたちが今、なにかを食べて、体の中のいろいろな反応のサイクルを回してエネルギーを得て、それによって活動してまた何か食べて……というふうに続ける仕組みに相当する。一方で、後者は、自己複製し子孫を残し、進化していくものという捉え方だ。いずれも相矛盾する話ではなく、着目点が違う。現時点の知見では、前者の方が早い時点で実現し、後者のほうが時間的には遅れて実現したと想定される。

 藤島さんの研究は、そういった生命のシステムが回り始める瞬間をとらえるためのものだと言い換えることもできる。それを合成生物学的な実験で行うというのだから、それはつまり原始地球の環境とそこにいた「生命の種」みたいなものを実験室内に再現して、様子を見ることにほかならない。

 具体的に何を目標にしているのか。まずは代謝にかかわる話題として、藤島さんはこんなところから説き起こした。

「地球生命が利用しているエネルギーは、化学反応によるものが主です。特に物質間で電子がやりとりされる『酸化還元反応』に由来する電位差に基づく自由エネルギーを活用しています。電子を橋渡しする上で、最も重要とされているタンパク質はその中に、金属補因子と呼ばれるものを持っているんです。鉄・硫黄クラスターという、鉄と硫黄からなるナノスケールの鉱物の塊です。それが電子をつかまえて、体の中で起きている酸化還元反応のために必要な電子を供給しています。僕はこういった鉱物を持ったタンパク質がどんなふうにできてきたのか注目しています」

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