第1回 そもそも「宇宙生物学」って何ですか?

「私が大学院時代を過ごした慶應の先端生命科学研究所(山形県鶴岡市)では、いろんな分野を並列に研究しているのが特徴でした。例えば、ゲノムレベルで解析をする人がいれば、一つ上のRNAのレイヤーで見ている人もいます。さらに、合成されたタンパク質の機能を網羅的に調べている人もいれば、代謝物質を見ている人もいます。結局、いろんな階層で生物が実際にどういうプロセスを生体内で行っているのかというのを見ていく。で、その階層同士のつながりをシステムとして統合してとらえるのがシステムズバイオロジーということです。僕の研究は、古細菌におけるセントラルドグマ、つまりDNAからRNAを経てリボソームでタンパク質が合成される部分に関わる分子の多様性や関係性を階層を超えて見ていたわけです」

 この時、藤島さんが師と仰ぐ金井昭夫教授の下で行っていた研究については、設計図に応じたアミノ酸を連れてきてつなげるtRNA(転移RNA)の進化が含まれていたことを付け加えておく。博論にはこれ以上深入りしないけれど、生命の基本システムといえるセントラルドグマの仕組みを研究する中で、藤島さんは自然と「生命の起源」というテーマに引き寄せられていった。

 博士研究を無事に終えて研究室の先生と後輩達の前で最終発表を行った後、藤島さんは思いの丈をぶつけた。

「これからはアストロバイオロジーをやりたいって宣言しました。生命の起源の研究をやりたいから、アストロバイオロジーが直に学べる場所でやりたい。でも、正直どこに行っていいか分からないからご助言をお願いしますって。すると、僕の先輩で、今慶應の先端生命研究所にいらっしゃる荒川和晴先生から、NASAのエイムズ研究センターにクマムシの研究をやっている堀川大樹さんという人がいるから相談してみろと言われて、堀川さんとの縁からエイムズにインターンしに行くことになったんです」

 前述の通り、エイムズ研究センターは宇宙生物学発祥の地だ。そして、クマムシは極限環境に耐える生物として、当時も今も宇宙生物学的な注目を集めており、この連載にも登場してもらった堀川大樹さんも、キャリアの初期にエイムズ研究センターで研鑽したのだった。

 藤島さんもエイムズ研究センターにて、宇宙的な枠組みの中で生命の起源を問う研究へと足を踏み出した。2011年のことだった。

「生命とは何か」から宇宙生命探査まで、藤島さんはわくわくする話をたっぷり語ってくれた。次回以降に乞うご期待!
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つづく

藤島皓介(ふじしま こうすけ)

1982年、東京都生まれ。東京工業大学 地球生命研究所(ELSI)「ファーストロジック・アストロバイオロジー寄付プログラム」特任准教授、慶應義塾大学 政策・メディア研究科特任准教授を兼任。2005年、慶應義塾大学環境情報学部を卒業後、2009年、同大学大学院政策・メディア研究科博士課程早期修了。日本学術振興会海外特別研究員、NASA エイムズ研究センター研究員、ELSI EONポスドク、ELSI研究員などを経て、2019年4月より現職。

川端裕人(かわばた ひろと)

1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、『天空の約束』(集英社文庫)、NHKでアニメ化された「銀河へキックオフ」の原作『銀河のワールドカップ』(集英社文庫)とその“サイドB”としてブラインドサッカーの世界を描いた『太陽ときみの声』(朝日学生新聞社)など。
本連載からのスピンアウトである、ホモ・サピエンス以前のアジアの人類史に関する最新の知見をまとめた近著『我々はなぜ我々だけなのか アジアから消えた多様な「人類」たち』(講談社ブルーバックス)で、第34回講談社科学出版賞と科学ジャーナリスト賞2018を受賞。ほかに「睡眠学」の回に書き下ろしと修正を加えてまとめた『8時間睡眠のウソ。 日本人の眠り、8つの新常識』(集英社文庫)、宇宙論研究の最前線で活躍する天文学者小松英一郎氏との共著『宇宙の始まり、そして終わり』(日経プレミアシリーズ)もある。近著は、世界の動物園のお手本と評されるニューヨーク、ブロンクス動物園の展示部門をけん引する日本人デザイナー、本田公夫との共著『動物園から未来を変える』(亜紀書房)。
ブログ「カワバタヒロトのブログ」。ツイッターアカウント@Rsider。有料メルマガ「秘密基地からハッシン!」を配信中。