第1回 そもそも「宇宙生物学」って何ですか?

 大きくて複雑な様相を呈している「宇宙生物学」のイメージをつかむためには、まず藤島さん自身が宇宙生物学に出会って、今に至るまでの話を伺うのがよいと、お話を聞き始めて最初の5分で作戦を立てた。特に、藤島さんが研究の中心に置いている「起源」から始めて、そこから発展して関わるようになった「分布」の問題に進めば、主に生物学方面から見た宇宙生物学の景色もかなりよく見えてくるのではないかと期待できる。

 というわけで、藤島さん自身の「宇宙生物学」との出会いをまずは聞きたい。

 そのように述べると、藤島さんは大判の「本」を、さっとぼくの前に差し出した。

「宇宙生物学との出会いといいますと、学生時代に取り組んでいたことから始まります。大学時代の長い話をギュッと縮めた学位論文のタイトルを見ていただければと思います」

藤島さんの学位論文。
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 その「本」、つまり、製本された博士論文の表紙にはこのようにあった。「古細菌(アーキア)におけるセントラルドグマ理解に向けたシステム生物学的アプローチ(“Systems biology approach toward understanding the central dogma in Archaea”)」

「古細菌におけるセントラルドグマ」を理解したい、という。

 まず、古細菌というのはどういうものだろう。

「古細菌は、最初は高温、強酸、強アルカリといった地球上のさまざまな極限環境の中で見つかってきた微生物です。現在では地球上のバイオマス(生物量)の20%ぐらいを占めると言われていまして、あまり一般には知られていないけれども、非常に多様性にも富んでいます。この微生物になぜ注目したかというと、すべての生物の共通祖先から、まずはバクテリア(細菌)と古細菌が2つに分かれて、さらにその古細菌の一門から、人間を含めた真核生物が進化したということが予想されています。言ってみれば古細菌は私たち真核生物の大先祖ともいえる興味深い存在です。また、生命の共通祖先の近くにいる生物というのは、好熱菌、つまり熱いところに住んでいたと言われているものが大半なんですけれども、古細菌はその中でも特に多くの種類が見つかっているので、古細菌の研究をしたら生命の起源に少しでも近づけるのかなっていうふうに当時はぼんやりと思っていました」