第1回 そもそも「宇宙生物学」って何ですか?

 取材を受け入れてくれたのは、ELSI公式ウェブサイトで、専門領域を「宇宙生物学」と表記している藤島皓介研究員だ。慶應義塾大学で、システム生物学、合成生物学といった、先進的かつ不思議な響きのある研究分野を修めた後、宇宙生物学発祥の地にして梁山泊、NASAのエイムズ研究センターで博士研究員を務めた俊英だ。2016年、日本に戻って現職にある。

 東工大大岡山キャンパスのELSI研究棟を訪ね、1階の広々したラウンジのテーブルで相対した。壁一面を埋める大きな黒板があって、たぶん研究者たちはここに概念図や化学式や数式を描いて白熱した議論を展開するのだろうと想像した。まさに映画に出てくるようなシーンだ。

 そこで、ぼくは映画に出てくる素人が研究者に向かって、よく分かっていない質問をするような場面を想像しつつ、とても大づかみなことを聞いた。

「そもそも宇宙生物学って何ですか」と。

 この分野に名をつらねる研究者には、天文学者(いわば「宇宙」担当)、生物学者(いわば「生物」担当)だけでなく、地学、惑星、海洋、化学、情報科学研究者などさまざまな専門性を持った人たちがいて、どうもとらえどころがないと感じる人がいても不思議ではないのである。

ELSIで宇宙生物学の研究を行う藤島皓介さん。
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「たしかに、とらえどころがないと思われても仕方がありませんよね。実は、宇宙生物学の研究者によっても、それぞれ答えは違うんじゃないでしょうか」

 ぼくを含めて一般の人たちが「宇宙生物学」と聞いて抱くつかみどころのない感覚は、研究者側からしても理解できるという。学際的、かつ、次々と新たな発見が続くスピード感のある分野なので、学問としての枠組みすら、誰もが認める「定義」が定まりにくいのだと想像した。それでは、やはり鵺(ぬえ)のような存在ということでよいのだろうか。

「ただ学問のテーマとしては、非常にシンプルなんです」と藤島さんは続けた。

「宇宙生物学研究の関心というのは、宇宙における『生命の起源』と『生命の分布』、そして人類を含めた『生命の未来』なんですね。この3つの関心の中にすべてがおさまっていると言っていいと思います」

 これには、ちょっとしびれた。

 宇宙における生命の起源、分布、未来。簡単に言うけれど、このスケール感はすごい。