トールキンの『シルマリルの物語』やエルフ語を通じて「神話と言葉」について考え、北欧神話のエッダや、伝承であるサガを経由した上で、日本の北欧研究や、マンガなどへの北欧の受容というところまで話が広がった。

日本のマンガにおける北欧神話の受容史を研究する伊藤盡さんの推しのマンガとは?
日本のマンガにおける北欧神話の受容史を研究する伊藤盡さんの推しのマンガとは?
[画像をタップでギャラリー表示]

 最終回の今回は、伊藤さんが今、オススメするマンガについて伺った上で、我々が日本でこういったことを受容し、またそれを議論することから何が見えてくるのか、研究者としての視野について伺いたいと思う。

 まず、伊藤さんが研究者としても、マンガファンとしても、読者に薦めたいものとは?

「まず、デンマーク人のぺーテル・マッシェンという制作者グループによる北欧神話の漫画化を、こんなものがあるということで紹介させて下さい。スタッフの1人は北欧神話の研究者なんですけれども、中世の文献に書かれているものの純粋な解釈を、子ども用に多少はアレンジしつつも、忠実にマンガにしています。実はこれはいろんな言語に訳されていて、今、お見せしているのはアイスランド語訳です。ヨーロッパではかなり読まれているものなんですが、日本語訳がないのが本当にもったいないです」

左がオリジナルで右がアイスランド語訳。
左がオリジナルで右がアイスランド語訳。
[画像をタップでギャラリー表示]

 これはいわば「マンガ日本神話」「マンガ日本史」のような本を我々が持っているのと同様のことだと理解する。日本でもここまで北欧神話人気が定着しているなら、翻訳のニーズはあるのではないだろうか。

 そして、その上で、日本の著者ではというと──

「まずは『ヴィンランド・サガ』をお薦めしたいですね。2005年に連載が始まり、今も連載中の21世紀の作品です。あの中にはいろいろな要素が含まれているんですけれども、一番意義深いのは著者の幸村誠先生がとても勉強家であるということです。ちょっと天才だろうなって思います(笑) ご本人は英語はそんなにできないっておっしゃるんですけれども、英語のできない人がとてもこれだけの取材はできないってくらい、世界各国から取材をなさっていることは明らかですね。資料だけでも研究者並みにそろえていらっしゃると思います。何よりもかによりも私がナショジオの読者に申し上げたいのは、これは日本だけでなく世界中で売れているってことですね」

『ヴィンランド・サガ』は、「サガ」というタイトルで分かるように、神話ではなく歴史時代の物語だ。主人公はアイスランド人で、ヨーロッパ大陸の激動に翻弄される少年期、青年期を経た後で、北大西洋をわたり、グリーンランドのさらに向こう、北米にあらたな居住地を拓こうとする。連載は今、主人公たちが北米に達して、いよいよクライマックスへと向かいつつある(ように見える)。そして、本作は様々な言語に翻訳され、世界的な読者を得ているという。

左がドイツ語版。
左がドイツ語版。
[画像をタップでギャラリー表示]

「ドイツ語版の翻訳が本当に見事です。それを読んでいるドイツ人読者は、一般的には日本の漫画好きのオタクっていうふうに思われるような人たちも多いのは否定しません。が、感動してるんですよ、みんな。ヨーロッパの11世紀という激動の時代を描いて、本当に小説、リテラチャー、芸術作品、面白い映画と全く同列にヨーロッパの読者が高く評価して下さっています。2018年にアイスランドで幸村先生が講演会をなさったときには、大学の公会堂の舞台から最後尾まで一直線の列ができるくらい、サインを求める人たちが来ました」

 日本でも高く評価されている作品だが、実は海外ではさらに高く評価されている事例のようだ。未読の方はむしろ幸せで、ぜひこれから楽しんで下さい! といえる。

次ページ:1980年代からもう1作品

おすすめ関連書籍

バイキング

世界をかき乱した海の覇者

伝説に彩られた北欧の雄、バイキング。その実像に迫る! 〔全国学校図書館協議会選定図書〕

定価:1,540円(税込)

おすすめ関連書籍

世界の海賊 海を愛した無法者たちの夢

歴史の始まりから、海は海賊とともにあった。洋の東西を問わず、陸からは見えにくい海に生きた人間たちの素顔をさらし、史実をあぶり出す。豊富なビジュアルとともに、歴史のロマンを感じる1冊。

定価:1,540円(税込)

この連載の前回の
記事を見る