第5回 世界水準の栄養疫学者ができるまで

 今村さんの初期の業績を見ていると、「フラミンガム研究」にかかわるものが多い。1948年以来、マサチューセッツ州の小さな町フラミンガムの住民を追跡しており、今では初代の参加者の子や孫を対象として代替わりした第二世代、第三世代の研究へと続いている。もともとは心臓疾患の研究から始まり、今はもっと幅広く様々なテーマに取り組んでいる。今村さんはこの成熟したコホートのデータを中心に扱って「食事パターン」を研究することにした。

「栄養学や栄養疫学が対象とするものには、まず栄養成分があって、食品があって、食事パターンといった階層があります。栄養疫学の歴史として、ビタミンや脂質といった栄養成分がどう影響するのか見てきて、それから食品ごと、たとえば、野菜やフルーツがどうか、加工肉はどうか、ということを見てきました。そして90年代半ばから食事のパターン、たとえば、日本食はどうか、地中海食はどうか西洋食はどうかということに関心が集まっていきました。それで、食事のパターンが大事だというエビデンスは積み重なっていったのですが、その解析方法などをきちっと検討する研究は少なかったので、私はあえてその前線から一歩引いて、解析方法の理論的な面について研究したんです」

 今村さんにとって「パターン」を分析するというのが関心の焦点になり、のちのちの研究に受け継がれていく。

「博士研究から一つ示唆できることとして、ある集団の食事パターンと健康の関係が得られたとしても、それを他の集団にはそのまま適用できないということですね。まあ考えれば当たり前なんですけど、それをエビデンスとしてきちっと示せたのはよかったです。食事の成分だとか食品の構成といった話だけじゃなくて、その地域でどのように食が流通して調理されるか、その集団がどうやって代々伝えてきたか、どのように根づいているか、というところも含めてのことなので」

「●●食を食べれば健康になる」というようなエビデンスをどの地域どの時代でも通じる普遍的な形で出すのは難しい。たぶんそうだろうと多くの人が思うだろうが、その難しさを示すエビデンスを出すことができたという話だ(※1)。

 具体的にはどういうことだろう。ちょっと興味があるので、敷衍(ふえん)してもらった。

「2008年8月の時点までの研究で、糖尿病のリスクと関連する『食事パターン』がアメリカ(女性看護師)、ドイツ、英国から発表されていました。穀物、野菜、果物、肉類、飲み物などをどんなふうに組み合わせているかということで定義した食事パターンと、糖尿病リスクとが関連していたという研究です。では、それらと似た食事パターンを取っている人が、フラミンガム研究でも、やはり糖尿病との関係を示すだろうかという検討を行ったんです。するとフラミンガム研究と同じ国であるアメリカ人女性看護師から得られた食事パターンは、フラミンガム市の皆さんでも糖尿病との関係が確認できました。しかし、ドイツ、英国から得られた食事パターンはそうでもなかったんです」

(※1)Imamura F, Lichtenstein AH, Dallal GE, Meigs JB, Jacques PF. Generalizability of dietary patterns associated with incidence of type 2 diabetes mellitus. Am J Clin Nutr. 2009;90(4):1075-83.
https://doi.org/10.3945/ajcn.2009.28009