第2回 キャノーラ油の起源と、もしかしたらすごい社会貢献度

 さて、「エルカ酸をたくさんとると心臓によくないかもしれない」と示唆されたわけだから、このコホートの参加者でエルカ酸の血中濃度が高かった人たちが何を食べてそうなったのか、まずは気になる。今村さんの論文では、まさにエルカ酸の摂取源についても検討されている。今、北米でよく食べられている食品の中でエルカ酸が含まれるのは、魚、チキン、全粒穀物などだ。比較的、健康によいと期待されているものも多いようで、ショックを受ける方もいるかもしれないが、いずれもそれほどの量が含まれているわけではない。研究の中で血中のエルカ酸が多かった人たちが、どんな食事をしてそうなったのかは、結局はよく分かっていない。

 では、どんな解析をして、結論に至ったのか。そちらの方が、ここでは「本題」だ。

 今村さんはエルカ酸の心毒性との関連がありそうな代表的な疾患として「うっ血性心不全」に着目した(心臓病といっても心筋梗塞や不整脈、心不全などなど多岐にわたる)。エルカ酸の血中濃度が高かった人が、低かった人よりも「うっ血性心不全」を発症する確率が高ければ、エルカ酸が仮説どおり悪さをしているのかもしれないと考えられるだろうというのが研究の基本アイデアだ。集団を設定し、長期間追いかけて結論を得るコホート研究はこのようなロジックに基づいている。

 ただし、単純に比較をすればよいというわけではない。というのも、「うっ血性心不全」のリスクを上昇させうる候補になる因子はエルカ酸だけではないのは明らかだからだ。たとえば、年齡は大きな要素で、若者には心疾患自体少ない。この研究では、開始時点で70代と50代と年齢的にはまとまった集団なのでそれほど気にする必要はないのだが、通常は「年齢調整」という操作をしないと、結果が根本的にゆがむ。ほかにも、考慮しなければならないものとして、体重、胴回り、血圧、コレステロール、血糖値、インスリン、他の脂質との組み合わせのパターンなど多くのものがあり、それぞれの影響を取り除かなければならない。

 また、これだけの要素に注目して慎重に解析していっても、未知の情報のゆがみがあるかもしれない。たとえば、測定時のエラーなど今さら確認しようない。そういった知られざる間違いがどれだけあったら結果がどれだけ変わるかという「感度分析」なども行う。

 この感度分析の一環として、今村さんは面白い検討を試みた。

「エルカ酸の摂取と脳卒中とは関係がなかった」ということを確かめることができれば、研究の説得力が増すのではないか、というのである。これはちょっと疫学的な検討の機微にふれるような気がするので紹介しておく。