第1回 「何を食べれば健康によいか」の根拠はここにある

 この時に言うエビデンスは「科学的根拠」と訳されることが多く、もともと疫学という学問に由来するものだ。日本では占いの「易学」と混同されることがあるほどマイナーな分野だが、実は様々な応用科学分野での実践に「根拠(エビデンス)」を与える重要な役割を担っている。医療におけるEBMは、まさにその具体例だ。

 そして、食についても栄養疫学という分野があって、日々、まさにぼくたちが知りたい「よい食べ物」「悪い食べ物」について研究を深めている。食物に関する健康情報の多くは栄養学の範疇だと理解されていると思うけれど、その「根拠」の多くを提供するのが栄養疫学だ。ならば、直接、栄養疫学者に話を聞いてみたい。そんなふうにずっと思っていた。

 機会が訪れたのは今年になってからで、たまたまぼくがロンドンに滞在中にケンブリッジ大学の栄養疫学者、今村文昭さんに会うことができた。

 ロンドンからケンブリッジ駅までは直通列車で50分弱。駅前からバスに乗り、10分ほどで大学病院であるアッデンブルック病院に到着。そこでしばらく待っていると、グレイのベストを着た30代くらいの男性が、軽く手を挙げながら近づいてきた。

 それが、今村さんだった。アメリカのボストンにあるタフツ大学で栄養疫学研究で博士号を取得、同じくボストンのハーバード大学公衆衛生大学院での博士研究員(ポスドク)期間を経て、2013年から英国のケンブリッジ大学MRC疫学ユニットの上級研究職に就いている。糖尿病や肥満に関する疫学を中心に活躍していると聞いている。

 今村さんに導かれて病院の建物に入る。患者が行き来するエリアからエレベーターに乗り、MRC疫学ユニットのフロアに着くと、雰囲気が一変した。ぱっと見る限り、病院ではなく、ごく普通の会社のオフィスのような光景だった。たくさんデスクが並んでおり、着席している人たちはそれぞれのPCの画面を見ながら仕事をしている。ぼくたちはさらに奥まったところへと進み、こぢんまりした個室で対話を始めた。

 まず今村さんの所属のMRC(Medical Research Council)について聞いておこう。字面通りに訳すなら「医療研究会議」だが、具体的なイメージがわかない。

英国ケンブリッジ大学MRCに所属する栄養疫学者の今村文昭さん。
[画像のクリックで拡大表示]