最終日、もう一カ所訪れてみたい場所があった。街から5キロほど離れた場所にあるカルティエ・ブルブフ国定史跡公園だ。そこは、探検家ジャック・カルティエが越冬した場所で、当時彼らが使った住居が復元され、残っているという。

1535年、カルティエと彼の部下は、この場所で冬を過ごした。しかし厳しい寒さで次々と命を落としていく。彼らを救ったのは先住民たち。アネダ(西洋杉)のお茶で、壊血病にかかった人たちを治療した。
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 車で新市街の方へ向かって5分ほど走ると、目的の公園はすぐに見つかった。セント・ローレンス川の支流サン・シャルル川のほとりに開けた緑豊かな公園だ。芝生の上では地元の人たちがのんびりと日なたぼっこを楽しんでいる。

 博物館があったので中に入ってみる。10人も入ればいっぱいになってしまいそうな狭い展示スペースの壁には、年表や地図などが掲げられ、当時の航海の様子を詳しく伝えていた。特に目を引いたのが、中央のガラスケースの中にある、精巧に作られた帆船のミニチュア模型だ。探検家たちが航海で使った船は想像をはるかに超える立派な物で、当時の造船技術の高さに驚いた。

 公園内にある住居跡に行こうとすると、スタッフに呼び止められる。どうやらガイド・ツアーのみで見学が可能だという。次のツアーは2時間後。残念がっていると、せっかく日本から来たのだからと、スタッフの女性が特別にゲートの鍵を開けてくれることになった。

「旧市街はいつも人であふれていますが、ここには1日20人くらいしか観光客が来ません。カナダの歴史に興味がある人だけですね」

 木柵を通過して中に入ると、そこには木の枝を編んで造ったまるで納屋のような住居が建っていた。内部は地面の土がむき出しで、中央に暖炉があるだけの実に粗末な造り。薄暗くジメッとしており、すき間風が吹き込んでくる。かつてニューファンドランド島のランス・オ・メドーで見た北欧のバイキングの住居跡に似ていた。

 資料によると、この地にやって来た探検家たちにとって、越冬はとても大変なことだったらしい。ジャック・カルティエ率いる110人の一行はここで越冬を決行したが、連日の厳しい寒さの影響で、25人が命を落とした。無事に春を迎えることができた者たちも、かなり衰弱した状態だったという。

 冬のカナダを旅し、氷点下30~40度のつらさは身に染みている。だから当時の越冬がどれほど過酷であったかが、おぼろげながら想像できた。もしかしたら、ヨーロッパ人にとって、新大陸での最大の敵は「寒さ」だったのかもしれない。

 西から東、南から北へと巡ったカナダの旅も、ここケベック・シティでひとまず終わりを迎える。旅の途中、四季折々に変化する美しい風景を感じ、たくさんの人々と交流し、カナダという一つの大国にますます引き込まれていった。そして今また、いくつもの新しいテーマが芽生えている。これからもずっとカナダを愛し、旅を続けていこうと思う。

この連載はカナダ観光局の提供で掲載しています。

吉村 和敏(よしむら かずとし)

1967年、長野県松本市生まれ。田川高校卒業後、東京の印刷会社で働く。退社後、1年間のカナダ暮らしをきっかけに写真家としてデビュー。以後、東京を拠点に世界各国、国内各地を巡る旅を続けながら、意欲的な撮影活動を行っている。自ら決めたテーマを長い年月、丹念に取材し、作品集として発表する。絵心ある構図で光や影や風を繊細に捉えた叙情的な風景作品、地元の人の息づかいや感情が伝わってくるような人物写真は人気が高く、定期的に全国各地で開催している個展には、多くのファンが足を運ぶ。近年は文章にも力を入れ、雑誌の連載やエッセイ集の出版など、表現の幅を広げている。作品集、写真展、テレビ出演等多数。2003年 カナダメディア賞大賞受賞、2007年 日本写真協会賞新人賞受賞、2015年 東川賞特別作家賞受賞。写真集に『プリンス・エドワード島』『「フランスの最も美しい村」全踏破の旅』(講談社)、『BLUE MOMENT』『MORNING LIGHT』(小学館)、『光ふる郷』(幻冬舎)、『あさ/朝』(アリス館)、『こわれない風景』(光文社)、『ローレンシャンの秋』(アップフロントブックス)、『林檎の里の物語』(主婦と生活社)、『PASTORAL』(日本カメラ社)、『Sense of Japan』(ノストロ・ボスコ)、『Shinshu』(信濃毎日新聞社)、『雪の色』(丸善出版)などがある。

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