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まだ明るい午後3時頃に明かりがともる。辺りが暗くなるにつれて光は輝きを強め、マジックアワーの時間帯に見るイルミネーションが最も美しい。右は「クリスマスの12日」に登場する「フランスの雌鶏」。奥にエッフェル塔が立っている。

 クリスマスが近づくにつれ、カナダの街はきらびやかな表情を見せはじめる。広場には大きなクリスマスツリーが置かれ、街路樹や店舗のショーウィンドウはカラフルなイルミネーションによって装飾されていく。

 12月初旬、ブリティッシュ・コロンビア州の州都ビクトリアの中心街にあるフェアモント・エンプレスホテルや州議事堂は、色鮮やかなイルミネーションに彩られていた。

 この街の最大の名所は、ダウンタウンから車で15分ほどの所にあるブッチャート・ガーデンだ。約6万7000坪(東京ドームおよそ5個分)の広大な敷地に、700種類以上100万本を超す植物があり、北米を代表する庭園の一つとなっている。

 かつてこの場所は、ロバート・ブッチャート氏が経営するセメント会社の石灰石の採石場だった。原料が掘り尽くされた跡地をガーデンにしようと考えたのは妻のジェニーだ。近隣の農地から土を運び入れ、花や木を植え、採石場の地形を生かした見事なサンクン・ガーデン(低い位置にある庭)を誕生させた。

 当初はプライベートで楽しむものだったが、やがて一般にも開放されるようになり、庭園は徐々に拡大していく。世界を旅するのが好きだった夫妻は、海外の庭園スタイルを積極的に自分たちの庭園に取り入れていった。海側の森の中には日本庭園を、家屋の横にはイタリア庭園を、家庭菜園だった場所にはバラ園を生み出した。やがて二人は、この庭園を、当時21歳だった孫のイアン・ロスに譲る。彼は79歳で亡くなるまでブッチャート・ガーデンの運営に携わり、現在はひ孫に引き継がれている。

 ブッチャート・ガーデンは、カナダの庭園には珍しく、冬の期間もオープンしている。しかし花が咲かない冬に、いったいどんな表情を見せてくれるのか、訪れる前から楽しみにしていた。ゲートをくぐって庭園に入る。早朝は氷点下になるような寒い日だったが、園内は世界中から訪れる観光客で賑わっていた。

 案の定、花はどこにもなかった。その割に違和感を覚えなかったのは、園内の至る所に常緑樹があり、「緑」の美しさを楽しむことができたからだ。よく手入れされた苗木にはうっすらと霜が降り、冬に咲く白い花のように見えなくもない。

 サンクン・ガーデンを目指して森の中を歩きはじめたとき、「ヤマウズラ」の置物が目に付いた。次に「キジバト」「フランスの雌鶏」が現れる。降誕祭を祝う歌の一つ、「クリスマスの12日」が庭園内に再現されているのだ。広大な敷地内を時計回りに歩くと、「金の指輪」「白鳥」「貴婦人」「笛吹き」が順番に現れる。最後のイタリア庭園で、12番目の「太鼓を叩く鼓手」を見つけたときは、なんだかうれしくなり、すっかりこのガーデンのとりこになっていた。

 いつしか夜の帳が下りていた。大急ぎで最初の場所に戻り、再びサンクン・ガーデンに行ってみる。眼下に広がる花壇は、植物ごとにLEDのイルミネーションで色分けされ、大地に敷き詰められたパッチワークのようになっていた。

 思わず目を細めたくなるほどまぶしく、美しい。クリスマスの時期だけが見せてくれる特別な花壇に心躍らせながら、カメラのシャッターを切り続けた。

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