いつかは行きたい最果ての地 ――ニューファンドランド

海沿いの崖の上に建つ「フォーゴ・アイランド・イン」(左)。29の客室があり、食事は宿泊料金に含まれている。各地に点在するアーティストが暮らすスタジオ(右)も、島の素朴な景観と調和するような優れたデザインになっている。
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海沿いの崖の上に建つ「フォーゴ・アイランド・イン」(左)。29の客室があり、食事は宿泊料金に含まれている。各地に点在するアーティストが暮らすスタジオ(右)も、島の素朴な景観と調和するような優れたデザインになっている。
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海沿いの崖の上に建つ「フォーゴ・アイランド・イン」(左)。29の客室があり、食事は宿泊料金に含まれている。各地に点在するアーティストが暮らすスタジオ(右)も、島の素朴な景観と調和するような優れたデザインになっている。

 フォーゴ島は、トウィリンゲート村から東に50キロほど離れた所にある人口2500人あまりが暮らす小さな島だ。今、この地の果てにある孤島が注目を集めている。

 フェアウェル港から出ているカーフェリーに車を乗せ、島に渡った。30分ほど車を走らせるとジョーバッツアーム村に入る。超高級ホテル「フォーゴ・アイランド・イン」は、海沿いの崖の上にポツンと建っていた。

 このインを経営するのは、カナダ本土のハイテク企業で大成功を収めた、島出身の女性起業家ジータ・コブ氏。彼女は、自ら興したビジネスで得た莫大な資金を使って、タラ漁が衰退した故郷を再生することに決めたのだ。

 州出身の著名な建築家トッド・サンダース氏に設計を依頼。2013年、島に昔から伝わる竹馬工法を採用したユニークなデザインの建造物が完成する。レストランで使われる食材はすべて地元で採れたものを使い、地元の人たちよって客に最高級のサービスを提供している。

 辺境の島に突如として現れた超高級ホテル。この無謀ともいえるプロジェクトは、当たった。宿泊料金は一泊15万~20万円以上もするが、連日満室で「なかなか予約が取れないホテル」となっている。そして何より、雇用の確保と観光収入の増加で、さびれていく一方だったフォーゴ島には再び活気が戻りはじめたのだ。

 ジータ氏は、もう一つユニークな取り組みを始めた。島内の6カ所にモダン建築のスタジオを造り、そのスタジオを世界中から招いたアーティストに長期間貸し出すことにしたのだ。生活費はすべて負担する。アーティストは、この島の美しい自然の中に「こもる」ことによって、独創にあふれる作品を自由に生み出していくのだ。

 フォーゴ・アイランド・インを見学した後、島に点在する4つのスタジオを訪れてみた。アーティストの創作活動の邪魔にならないよう、そっと外観の写真を撮ったが、たまたま出くわしたアーティストにインタビューを申し込むと、彼は快く承諾してくれた。

 アッシュイス・ウイシーマン氏は、バンクーバー出身で、モントリオールで暮らすアーティストだという。この「パトロンプロジェクト」の審査にパスしたので、2週間前にフォーゴ島にやって来た。彫刻家でありサウンドアーティストでもある彼は、集音マイクで自然界の音を拾い、アイデアスケッチを何枚も描きながら、何かを生み出そうとしている。

「最果てのピュアな島で、光や風、音に意識を傾けていると、街中にいる時以上に創作意欲が湧いてくるのです。来年の春には、思いもよらぬ作品が形になっていることでしょう」

 フォーゴ島をアートの島にするというこの既成観念にとらわれない取り組み。ニューファンドランドの小さな島で、また一つ別の「始まり」と出会い、何だかワクワクしてきた。

この連載はカナダ観光局の提供で掲載しています。

吉村 和敏(よしむら かずとし)

1967年、長野県松本市生まれ。田川高校卒業後、東京の印刷会社で働く。退社後、1年間のカナダ暮らしをきっかけに写真家としてデビュー。以後、東京を拠点に世界各国、国内各地を巡る旅を続けながら、意欲的な撮影活動を行っている。自ら決めたテーマを長い年月、丹念に取材し、作品集として発表する。絵心ある構図で光や影や風を繊細に捉えた叙情的な風景作品、地元の人の息づかいや感情が伝わってくるような人物写真は人気が高く、定期的に全国各地で開催している個展には、多くのファンが足を運ぶ。近年は文章にも力を入れ、雑誌の連載やエッセイ集の出版など、表現の幅を広げている。作品集、写真展、テレビ出演等多数。2003年 カナダメディア賞大賞受賞、2007年 日本写真協会賞新人賞受賞、2015年 東川賞特別作家賞受賞。写真集に『プリンス・エドワード島』『「フランスの最も美しい村」全踏破の旅』(講談社)、『BLUE MOMENT』『MORNING LIGHT』(小学館)、『光ふる郷』(幻冬舎)、『あさ/朝』(アリス館)、『こわれない風景』(光文社)、『ローレンシャンの秋』(アップフロントブックス)、『林檎の里の物語』(主婦と生活社)、『PASTORAL』(日本カメラ社)、『Sense of Japan』(ノストロ・ボスコ)、『Shinshu』(信濃毎日新聞社)、『雪の色』(丸善出版)などがある。