圧倒的な紅葉 ──ケベック

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水はけの良い斜面に作られた広大な畑には、シャルドネ、ツヴァイゲルト、リースリング、ゲヴェルツトラミネールなどの品種の木が植えられている。最も人気あるワインは、25年以上の古木からとれたブドウから生み出されたコテ・ダールドワス(18カナダドル)。若木とは明らかに違う、芳醇な香りと豊かさがあるという。

 モントリオールから東に100キロほどのところに、イースタンタウンシップスと呼ばれる地域がある。この辺りも標高600メートル程の山が連なり、美しい紅葉を見ることができる。

 カナダやアメリカの大都市に近いこともあり、郊外にある小さな町や村には活気がある。観光名所として人気があるのが、ベネディクト派のサンブノワデュラック修道院だ。礼拝堂へと続く美しいモザイク模様の回廊があるこの祈りの場には、約50人の修道士が暮らしている。

 この地を訪れまず立ち寄ってみたのが、ケベック州で最も古いワイナリー、ドマン・デイ・コテ・ダールドワス。創業者は農場のオーナーだったクリスティァン・バルトムーフ氏だ。1980年、セイヴァルブラン種とシャルドネ種の苗木から始まったこの農園、現在は12ヘクタールの土地に5万本のブドウの木が育つ巨大なワイナリーに成長した。当初は無許可で醸造し、販売していたらしい。しかしここで作られたワインの味にケベック州酒類公社(SAQ)の担当者が感動して、1985年春に急きょ、許可書が発行されたという逸話が残されている。

 広大なブドウ園を見学した。すでに収穫は終わっていたが、ところどころに地元出身の彫刻家の作品が置かれていて、歩いていて楽しい。高台から、秋色に染まるイースタンタウンシップの丘陵を一望した。

 かつてロイヤリスト(英国王党派)によって造られた小さな町デュナムに、カナダでは珍しいレンガ造りのしゃれた建物があった。薬局、美容院、パティシエの工房などがあり、一番奥はクラフトビールの醸造所になっていた。

 デュナム醸造所は2011年の設立。伝統的なヨーロッパの醸造を継承し、この地の土壌や原料を研究することで、独自の味覚を追求する地ビールを生み出しているという。チーフのマシュー・パケット氏が、巨大なタンクが並ぶ工場内を案内してくれた。最後にぜひ飲んでみてくれとビールをグラスに注いでくれる。柑橘系のホップの香りがフワッと広がり、ふとベルギーで味わったトラピストビールを思い出す。苦味は少なく、喉ごしが良いのでグッと飲める。アルコール度数は6.5%と高め。グラス一杯で十分な満足感を味わうことができた。

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教会を改装したスタジオで創作活動を行うベルニース・ソールジュさん。25歳の頃から本格的に絵を描きはじめたという。畑ではオーガニックで野菜を育て、森の植物から集めたDNAを抽出し、研究もする。このような自然とのつながりから、作品が生み出されていく。

 イースタンタウンシップスにも、想像を超える美しい秋色の世界が広がっている。森の手前にポツンと民家や納屋が建っているので、生活感を感じられる写真が撮れる。

 田舎の未舗装路を走っていたとき、森の中に隠れるようにして建つ小さな聖堂を見つけた。たまたま出てきた初老の女性が、「中に入っていいわよ」を優しく声をかけてくれた。何とここは、カナダを代表するアーティスト、ベルニース・ソールジュさんのスタジオだったのだ。

 自然光が差し込む広々とした空間には、制作途中の巨大な絵画が何枚も立て掛けられている。いくつもある机やテーブルに、絵具や筆、パレットが無造作に置かれ、まるで色づいた落ち葉が散らばっているようだ。まさにスタジオ自体がアートだった。

「画家のスタジオは、写真家にとっては被写体の宝庫のようなものですね。私の作品を含め、自由に写真を撮っていいですよ」とベルニースさん。

 ベルニース・ソールジュさんはノバスコシア州の生まれ。若い頃はメキシコ、中南米、ヨーロッパをなど世界各国で暮らし、1970年にイースタンタウンシップスに定住したという。1987年、放置されていたこの教会を買い取り、自ら改装してスタジオとした。以後31年間、ここで創作活動を続けている。

 歴史や文化、自然からインスピレーションを得た数多くの抽象画を残しているが、代表作は植物の葉をキャンバスに張り付けてプレスする「コラグラフィー」という技法で生み出された作品だ。モントリオール、トロント、オタワの各美術館をはじめ、パリ、ニューヨークで定期的に作品展を開催している。年代物のプレス機が置かれた地下の作業場には、この地で採取されたとは思えないほどの巨大な植物の葉が何枚も置かれている。

「毎日このスタジオの周りに広がる深い森を歩いています。ひっそりと呼吸をしている葉を見つめていると、感性が研ぎ澄まされていくのです」

 画家でもあり詩人でもある彼女と話をしながら、この居心地の良いアトリエで何時間も時を過ごしてみたい衝動に駆られた。おそらく、芸術家として生きる理想の姿が目の前にあったからだろう。

この連載はカナダ観光局の提供で掲載しています。

吉村 和敏(よしむら かずとし)

1967年、長野県松本市生まれ。田川高校卒業後、東京の印刷会社で働く。退社後、1年間のカナダ暮らしをきっかけに写真家としてデビュー。以後、東京を拠点に世界各国、国内各地を巡る旅を続けながら、意欲的な撮影活動を行っている。自ら決めたテーマを長い年月、丹念に取材し、作品集として発表する。絵心ある構図で光や影や風を繊細に捉えた叙情的な風景作品、地元の人の息づかいや感情が伝わってくるような人物写真は人気が高く、定期的に全国各地で開催している個展には、多くのファンが足を運ぶ。近年は文章にも力を入れ、雑誌の連載やエッセイ集の出版など、表現の幅を広げている。作品集、写真展、テレビ出演等多数。2003年 カナダメディア賞大賞受賞、2007年 日本写真協会賞新人賞受賞、2015年 東川賞特別作家賞受賞。写真集に『プリンス・エドワード島』『「フランスの最も美しい村」全踏破の旅』(講談社)、『BLUE MOMENT』『MORNING LIGHT』(小学館)、『光ふる郷』(幻冬舎)、『あさ/朝』(アリス館)、『こわれない風景』(光文社)、『ローレンシャンの秋』(アップフロントブックス)、『林檎の里の物語』(主婦と生活社)、『PASTORAL』(日本カメラ社)、『Sense of Japan』(ノストロ・ボスコ)、『Shinshu』(信濃毎日新聞社)、『雪の色』(丸善出版)などがある。