圧倒的な紅葉 ──ケベック

よく晴れた日の朝は濃い朝霧が発生する。この地に移住してきた人たちは湖畔に家を建てて暮らすことを好み、四季折々に変化する風景を楽しんでいる。ケベック州はメープルシロップの主要な産地だ。採取するためのシュガーシャック(砂糖小屋)が点在している。
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 世界中の人を魅了するカナダの紅葉の中でも随一の名所とされているのが、ケベック州モントリオールから130キロほど北上したところに広がるローレンシャン高原。サトウカエデを中心に、アカナラ、ニレ、ユリノキ、シナノキ、トネリコなどの落葉広葉樹に覆われた豊かな森が連なり、秋になると木々の葉がいっせいに色を変える。

 この辺りはかつてシロマツをはじめとする針葉樹が生い茂る森だった。しかし1800年代、ヨーロッパからの入植者たちが木々を伐採し、造船や建築の資材として本土へ送った。そして丸裸になった山の斜面に台頭してきたのが、美しい紅葉を見せるサトウカエデだった。サトウカエデは発芽率が高く、生育が早い。夏は暖かく雨が多いという恵まれた気候と、アパラチア山系の石灰分を含んだ肥沃な土壌が、広葉樹の生育に好都合だった。

 紅葉はいつ始まるのか――。これは誰にもわからない。過去30年間のデータをひも解くと、9月30日前後が最も多い。しかし、9月20日前後にピークを迎えたこともあれば、10月5日以降にずれ込んだこともある。

 9月28日、モントリオール・ミラベル国際空港に到着した。まずはレンタカーを借り、ローレンシャン高原へと続く国道15号線を北上する。バルダビットの町を過ぎた頃から、道の両脇になだらかな山並みが広がりはじめる。緑を色濃く輝かせている木々を見て、「紅葉に間に合った」と胸をなで下ろしたのだった。

 モントランブラン郊外にあるB&B(小規模な宿泊施設)に滞在して4日目、北からの寒気団が流れ込み、気温は氷点下近くまで下がった。降り続いていた雨がようやく上がり、雲一つない夕空が広がる。木々の葉は明日の朝に色を変えるに違いない、そう確信した。

 翌朝、まだ暗いうちに宿を出て森へ向かった。湖畔は真っ白な霧のベールに覆われ、視界は全く利かない。しかし午前8時を過ぎると、まぶしい太陽光に誘われるかのように霧が流れ出し、森が姿を現した。

標高600メートル前後の低い山が連なるローレンシャン高原。カナダ東部のアパラチア山脈に連なるこの地には、ムースやリス、ビーバーなどの野生動物が生息する豊かな自然が残されている。週末になると、モントリオールやオタワなどの都市からたくさんの人がやって来て、サイクリングや乗馬、カヌー、ラフティングを楽しんでいる。
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 赤、黄、オレンジに染まる木々……。目を開けていられないほどのまぶしさだ。あまりに美しすぎる光景と出会うと、しばらく見つめていたいという思いが先に立ち、カメラのシャッターを切ることがおろそかになってくる。

 午後、州立公園のハイキングトレイルを歩いてみた。時折姿を現すシカやリスとの出会いを楽しみながら緩やかな坂道を登って行くと、40分ほどで山の中腹にある見晴台に出た。

 ローレンシャン高原を一望して、まず驚くのが、まるでペンキを流し込んだような濃いオレンジの色彩。日本の秋にはない色だ。でもそれ以上に心が震えたのは、想像を超えるスケールの大きさだった。豊かな樹木に覆われた山々が、はるか彼方まで延々と続いている。まるで波打つ大海原に迷い込んだかのようだ。その時、はっきりとわかった。この開放感こそがカナダの秋の最大の魅力になっていることを。

 紅葉のピークは、わずか3~4日で終わる。その後、木々の葉は一気に落葉し、やがて初雪が舞う。約半年間続く厳しい冬がやって来るのだ。