冬の絶景 ──オンタリオ、アルバータ、ブリティッシュ・コロンビア

カナダ側から眺めるアメリカ滝。2018年1月は寒さが厳しく、例年よりも厚い氷と深い雪に覆われた。滝周辺は約8万人が暮らす大きな街で、高級ホテル、カジノなどのレジャー施設や、レストラン、カフェが建ち並び、観光地らしい華やかさがある。滝は、冬でもライトアップでカラフルに彩られる。
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 世界三大瀑布の一つナイアガラの滝は、エリー湖からオンタリオ湖へと流れるナイアガラ川の中間に位置し、カナダ滝と、国境を隔てたアメリカ滝、ブライダルベール滝の三つからなっている。大都市トロントから車で90分という地の利から、年間2000万人以上が訪れる。カナダを代表する観光地だ。

 滝を楽しむために、様々なアクティビティーが用意されている。もっとも有名なのは遊覧船ホーンブロワー号でのクルーズ。カナダ滝の滝壺のすぐそばまで近づき、乗客は嵐の中にいるような激しい水しぶきを浴びる。滝全体を上から見下ろせる位置に立つ展望台スカイロンタワーから眺める二つの滝も壮観だ。さらに高いところから見たい人には、ヘリコプターのツアーもある。馬蹄型をしたカナダ滝の真上から滝壺を見渡すと、氷河期から続く1万2000年の悠久の時の流れに吸い込まれていくような不思議な感覚を味わえる。

 トロントを訪れるたびに、ナイアガラの滝には立ち寄っていた。だが冬の姿は、まだカメラに収めていなかった。そこで思い切って1月中旬に足を運んでみることにした。

 この時期、さすがに観光客は少ない。しかしカナダ滝を目にした途端、はっと息をのんだ。周辺の草木は何層もの氷に覆われ、真っ白な世界に生まれ変わっていたからだ。1日の最高気温が0℃を下回るような寒さのなかでは、滝壺から立ち昇る水しぶきが大気中に拡散し、瞬時に凍りついてしまうのだろう。

 アメリカ滝に目を移すと、こちらも一面真っ白だ。ゴツゴツした巨大な岩が深い雪に覆われ、まるで高山地帯のような姿を見せる。地球が一瞬にして氷河期に逆戻りしてしまったような光景を間近にし、しばらく身動きできなくなるほど感動した。

 ふと我に返り、写真を撮る。シャッターを響かせながら、ナイアガラの滝は夏よりも冬の方が数倍も絵になるかもしれないと感じ入った。

カナディアンロッキーのシンボル、レイクルイーズ。夏場、エメラルドグリーンに輝く湖は、冬になると全面凍結し、雪に覆われてしまう。山の稜線から朝日が顔を出す2時間ほど前、ビクトリア氷河は神秘的な青い世界に包まれる。
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 ナイアガラの滝から西へ3200キロのアルバータ州、4000メートル級の岩山が連なるカナディアンロッキーの真冬の姿も印象的だ。ピンと張り詰めた大気のなか、白く雪化粧した岩山が、真っ直ぐに目に飛び込んでくる。まさに積雪があると、独特の存在感を醸し出す富士山と同じだ。

 険しい岩山は、朝と夕の斜光に照らされると真っ赤に染まる。麓の町バンフからジャスパーへと続く約280キロのアイスフィールドパークウェイをドライブしながら、何度も車を止める。レイクルルイーズから望むエンジェル氷河、ボウ川のほとりにそびえるキャッスルマウンテン、総面積325平方キロの巨大なコロンビア大氷原、カナディアンロッキーの最高峰ロブソン山――。

 次から次へと現れる美しい風景にカメラを向け、朝の表情を捉える。絶景を独り占めにしていると、目の前に広がる冬の美しさを誰かに伝えたいという想いが膨らみ、写欲が強くなっていく。

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バンフからトランスカナダハイウエイを北上し、サスカチュワンリバークロッシングの交差点を右折するとアブラハム湖にたどり着く。ヘリポートを越え、さらに5分ほど走ると、たくさんのアイスバブルが発生している絶好のポイントがある。最も寒さが厳しい1月中旬~2月初旬が見頃。

 真冬のカナディアンロッキーで、どうしても撮りたい被写体があった。アイスバブルだ。これは文字通り凍った泡。湖底で発生したメタンガスが湖面にたどり着く前に凍りつき、摩訶不思議な自然現象が現れる。アイスバブルは、カナディアンロッキーのいくつかの湖で見ることができる。有名なのはアブラハム湖だ。ここは風の通り道になって氷上に雪が積もりにくく、真冬でも氷がむき出しになるので、アイスバブルがよく見える。

 湖をすっぽりと覆う厚い氷の上を歩きはじめると、アイスバブルはすぐに見つかった。透明度の高い氷の中に、白く丸い泡が何層にも連なっている。海に浮かぶクラゲのようにも見えるし、真っ白な花咲く大地を俯瞰しているようにも見える。氷に顔を近づけ、よく見てみた。大きなバブルからは、糸を引くように小さな気泡が出ていて、それすらも凍りついている。瞬時に時間が止まるとは、まさにこのようなことをいうのだろう。

 体感気温はマイナス25℃。この厳しい寒さを忘れ、カナダが冬の旅人にプレゼントしてくれた究極のアートを楽しんだ。

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夏場、トフィーノはホエールウォッチングで賑わうが、冬になるとストームウォッチングが人気だ。海沿いには高級リゾートホテルもあり、ホテルがもつビーチからも太平洋の荒波を眺めることができる。ミアーズ島にあるビッグツリートレイルは1周1時間ほど。島へは海上タクシーで渡る。

 カナディアンロッキーを越えて、さらに西のブリティッシュ・コロンビア州へ。バンクーバー島の西の海岸線に位置するトフィーノへ向かうため、6人しか乗れない小さなプロペラ機に乗る。撮影機材が入ったスーツケースを一体どこに入れるのだろうと不思議に思っていたら、副操縦士は操縦席前にある小さなトランクに格納していた。

 約40分のフライトで、トフィーノの空港に到着する。2000人あまりが暮らすこの小さな町は、冬の季節、「ストームウォッチング」で注目を集めている。太平洋に面した海岸線は、荒れた海の高波をもろに受ける。その雄大な大自然の姿が口コミで広がり、それまでシーズンオフだった冬に多くの人が訪れるようになったのだ。

 この日はめずらしくポカポカ陽気で、風もなかった。しかしビーチには、2~3メートルの白波が何層にもなって打ち寄せてくる。激しくもどこか優しい、そんな海の姿をぼんやりと眺めながら、はるか先にある日本へ思いをはせた。

 翌日は雨。ガイドのトム・ライアンさんが、一緒にレインフォレスト(温帯雨林)のトレイルを歩かないかと提案してくれた。レインウエアを着て、樹木がうっそうと茂る森の中に入っていく。針葉樹林が発する森の香りと、雨に濡れたシダ植物の色彩に心を癒やされる。やがて目の前に樹高20メートル、根回り15メートルを超える杉の巨木が現れた。

 「樹齢1700年以上、先住民たちが崇めていた神聖な木です。1980年代、この地区の杉は伐採の脅威にさらされたこともあったのですが、反対運動が起こり、結果として残されました」。ここに来るのは久しぶりだというと、トムさんが興奮気味に説明してくれた。

 巨木の脇にある木道が、木の生長に押されて大きく歪んでいる。いかにも大自然カナダらしいトレイルの姿に心打たれ、あえて巨木と木道を組み合わせて一枚の作品に仕立てた。

この連載はカナダ観光局の提供で掲載しています。

吉村 和敏(よしむら かずとし)

1967年、長野県松本市生まれ。田川高校卒業後、東京の印刷会社で働く。退社後、1年間のカナダ暮らしをきっかけに写真家としてデビュー。以後、東京を拠点に世界各国、国内各地を巡る旅を続けながら、意欲的な撮影活動を行っている。自ら決めたテーマを長い年月、丹念に取材し、作品集として発表する。絵心ある構図で光や影や風を繊細に捉えた叙情的な風景作品、地元の人の息づかいや感情が伝わってくるような人物写真は人気が高く、定期的に全国各地で開催している個展には、多くのファンが足を運ぶ。近年は文章にも力を入れ、雑誌の連載やエッセイ集の出版など、表現の幅を広げている。作品集、写真展、テレビ出演等多数。2003年 カナダメディア賞大賞受賞、2007年 日本写真協会賞新人賞受賞、2015年 東川賞特別作家賞受賞。写真集に『プリンス・エドワード島』『「フランスの最も美しい村」全踏破の旅』(講談社)、『BLUE MOMENT』『MORNING LIGHT』(小学館)、『光ふる郷』(幻冬舎)、『あさ/朝』(アリス館)、『こわれない風景』(光文社)、『ローレンシャンの秋』(アップフロントブックス)、『林檎の里の物語』(主婦と生活社)、『PASTORAL』(日本カメラ社)、『Sense of Japan』(ノストロ・ボスコ)、『Shinshu』(信濃毎日新聞社)、『雪の色』(丸善出版)などがある。