セントジョン川沿いに広がる歴史村キングスランディングには、古き良き時代のロイヤリストの村が再現されている。夏場この村で働いて生活している人たちは全員スタッフやボランティアで、牛車を引いたり、暖炉で煮炊きをしたりしている。夏休みの子どもたちが参加することもある。
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 ノバスコシア州の北西にニューブランズウイック州が隣接する。州都フレデリクトンは、イギリス王室に忠誠を誓ったロイヤリストたちが築いた街だ。セントジョン川沿いには、ニレの街路樹に抱かれるように、ビクトリア様式の邸宅が立ち並んでいる。いくつかの大学や短大、専門学校があるためだろう、街は若者たちで賑わっていた。

 この街の郊外に、18世紀のロイヤリストの生活を垣間見ることができる歴史村「キングス・ランディング」がある。かつてダム湖の建設によって水没が決まった村から、民家や納屋、教会などの建物を移築し、この広大な歴史村を誕生させたのだ。

 ゲートをくぐり、村の中に一歩足を踏み入れた途端、目の前に広がる世界に驚愕した。映画でしか知らなかった18世紀の村が、そのままの形で再現されていたからだ。面白いことに、ここで働く人たちも、当時の服装に身を包み動き回っている。カメラのシャッターを盛んに押しながらいくつかの農家を訪問し、昔の家具や調度品、農機具を見せてもらった。その後、学校、教会、雑貨屋、鍛冶屋、製材所と巡ったが、まるで300年前にタイムスリップしたかのような不思議な感覚を味わった。

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ファンディ湾は内陸部に深く細長く入り込む地形で、潮の満ち引きの差が大きい。湾の一番奥では、干満の差が30メートルに達するところもある。1日2回ずつ繰り返されるそうした自然の営みによって、周辺の岩は削られ、ユニークな形に姿を変える。

 ノバスコシア州とニューブランズウイック州を分けるファンディ湾は、世界最大の干満差があることで知られている。その光景を間近に見られるのは、ニューブランズウイック州モンクトン郊外にあるホープウェルロックだ。訪れたのがちょうど満潮時で、高さ10メートル以上もある岩の大半が海の中に沈んでいた。しかし6時間後に訪れてみると、先程とは全く異なる光景が広がっていた。なみなみとした湾の海水はずっと先の方まで後退し、どの岩も根元まで露出した状態になっていた。

 干潮時、周辺の漁港でも、目を見張る光景が広がっている。桟橋に係留されているすべての漁船が船底をさらけ出し、露出した湾の底にぺたりと横たわっているのだ。当然、この時間帯、漁師は海に出ることが出来ない。彼らは、毎日の潮の流れをチェックし、働く時間を決めているのだろう。自然界のリズムに合わせて生きるその姿に、アトランティック・カナダで暮らす人々の心の豊かさを感じた。

この連載はカナダ観光局の提供で掲載しています。

吉村 和敏(よしむら かずとし)

1967年、長野県松本市生まれ。田川高校卒業後、東京の印刷会社で働く。退社後、1年間のカナダ暮らしをきっかけに写真家としてデビュー。以後、東京を拠点に世界各国、国内各地を巡る旅を続けながら、意欲的な撮影活動を行っている。自ら決めたテーマを長い年月、丹念に取材し、作品集として発表する。絵心ある構図で光や影や風を繊細に捉えた叙情的な風景作品、地元の人の息づかいや感情が伝わってくるような人物写真は人気が高く、定期的に全国各地で開催している個展には、多くのファンが足を運ぶ。近年は文章にも力を入れ、雑誌の連載やエッセイ集の出版など、表現の幅を広げている。作品集、写真展、テレビ出演等多数。2003年 カナダメディア賞大賞受賞、2007年 日本写真協会賞新人賞受賞、2015年 東川賞特別作家賞受賞。写真集に『プリンス・エドワード島』『「フランスの最も美しい村」全踏破の旅』(講談社)、『BLUE MOMENT』『MORNING LIGHT』(小学館)、『光ふる郷』(幻冬舎)、『あさ/朝』(アリス館)、『こわれない風景』(光文社)、『ローレンシャンの秋』(アップフロントブックス)、『林檎の里の物語』(主婦と生活社)、『PASTORAL』(日本カメラ社)、『Sense of Japan』(ノストロ・ボスコ)、『Shinshu』(信濃毎日新聞社)、『雪の色』(丸善出版)などがある。

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