視界いっぱい満開の花 ──バンクーバー
西の玄関口として親しまれているバンクーバーは、カナダの中で最も早く春が訪れることで知られ、近年は桜の名所としても注目されている。街中には50種以上、10万本を超える桜の木があり、3月上旬から5月上旬にかけて、次々と咲き誇る桜を見て楽しむことができるのだ。そんな北国の美しい春の表情を、以前から作品として残したいと思っていた。
4月中旬、バンクーバー国際空港に降り立つと、すぐに近代的なビルが林立するダウンタウンへ向かった。澄み切った青空が広がっているが、ジョージア海峡から吹く風は刺すように冷たい。街中のストリートとその周辺に点在する公園を歩いてみたら、2018年の桜の開花状況を知ることができた。ソメイヨシノ、曙、アーコレードなど早咲きの桜はすでに散り、ちょうど八重桜が花をつけはじめていた。ダンズミュア・ストリートで八重桜の街路樹を眺めていたら、「今週は晴れの予報なので3日ほどで満開になるよ」とカフェの店員が教えてくれる。
海と森の大自然が間近に迫るバンクーバーには、魅力的なスポットがあふれている。まず訪れたのが、ダウンタウンから車で20分ほど走ったところにあるキャピラノ渓谷だ。キャピラノ川に架かる長さ140メートルの吊り橋や、花崗岩の断崖に設置されたクリフ・ウォークと呼ばれる歩道など、太古から受け継がれたダイナミックな自然をさまざまな角度から体感できるようになっている。さらに上流には、地元の人たちが森林浴をしたいときにやって来る、キャピラノ・リバー・リージョナル公園がある。苔むした針葉樹の森に延びたトレイルを歩いて、高さ61メートルのダグラスファー(米松)の巨木が屹立する場所まで行ってみた。
ダウンタウンの北に広がるスタンレー・パークは、バンクーバー最古の公園だ。カナダ国定史跡にも認定されている。太陽が西の空に傾く時間帯になると、仕事を終えた人たちが吸い寄せられるようにこの公園に集まり、サイクリングやジョギングをして思い思いの時を過ごす。都会に暮らす人にも、身近な自然とのふれあいが生活の一部になっているようだ。そんな状況を目にしていたら、バンクーバーが毎年のように「世界で最も暮らしやすい街」ランキングの上位に選ばれる理由がわかってきた。